【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「ちょっと待てよ。何だ、それ」
「へ?」
尾形さんが止まったので『何か変なことを言っただろうか』と、今し方の自分の言葉を思い返した。
――どうにかして元の時代に帰ったら、もう二度とこっちには来ない。
当たり前のことだ。何もおかしなことは言ってない。
だが尾形さんは剣呑なご様子だ。まるでこちらの正気を疑うかのような。
「二度と来ないって……おまえ、何で平気な顔で言ってるんだ」
「は? いやだって、私がここに居続けるわけにいかないじゃないですか。さっきだって――」
外国の人に、百年後の技術を奪い取られる寸前だった。
時代を考えれば、それがどんなに危ないことだったか。
「なら、今ここで全部燃やせばいい。さっきの『すまほ』とか言うのは、俺が銃で破壊してやる。
火をおこせ、グズグズするな!」
「ちょっとちょっとちょっと!」
尾形さんが銃を下ろしたので、彼が本気だと分かった。
「いや何でそんなことするんですか!」
私は背中のリュックを庇うように言う。残債だって残ってるのに!
だが尾形さんは銃を下ろしたままだ。
「『すまほ』やおまえの背嚢(はいのう)がなければ、さっきの西洋人もおまえに興味を無くす。
おまえがこの先の時代から来たという証拠もなくなる」
「い、いや。今、リュックに入ってるのは未来の世界で生活するために必要なものばっかりなんです。
私は元の時代に戻らなきゃいけないですよ」
「『待っている人は誰もいない』……おまえは何度か俺にそう言ったはずだ」
「いえ、あれは言葉のあやってやつで、私が消えたら困る人も――」
「なら……おまえが消えたら困る、こっちの世界の奴らはどうなる」
「え? はあ?」
私、ポカーンとした顔になる。何言ってんだ、この人。
いつものシニカルなキャラがカケラも見えない。
……何か必死じゃね?
「い、いえ、別にこっちの世界で私が消えて困る人はいないでしょ?」
「梢――」
尾形さんは言葉を切る。
そしてたっぷり一分は黙った後、立ち尽くす私に言った。
「俺が……」
「は?」
「何でもねぇよ……とにかくこのまま、こっちに居てもいいだろうが!」
彼はムチャクチャなことを怒鳴った。
私に銃をつきつけながら。