【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
それから半日逃げ、どうにか追っ手を巻いたあたりで、休むことが出来た。
そして尾形さんは。
「未来から来た……か。さすがに信じられんが」
そう言いつつ、スマホをいじる。
すごいなあ。三十年式歩兵銃抱えた明治の軍人さんが、スマホを使ってる。シュールだなあ。
私は銃口突きつけられたこめかみを擦りつつ、そう思った。
うむ。ごまかそうとしたが、銃で脅されました。
どのみち言い訳のストックは尽きてる。苦しい説明を続けて拷問受けるよりはと、本当のことを話すことにした。
「信じられんが、こんなもんを見せられりゃなあ……」
タイムスリップバレという重要シーンなのに、明治の軍人さんはスマホの方に興味津々である。
「梢、このボタンは何だ? この穴は何なんだ? お、おい! ここを押したら変な絵が出てきたぞ!『音量』って何だ?」
……面倒くさ。
「すみませんが、むやみに触らないで下さい。爆発します」
「わ、分かった」
ビビりつつも、まだスマホを手放したがらない猫。
あ、大半のアプリは制限して渡してますのでご安心を。
でも初めてタブレットに触れたお子さんのごとく、指で画面をスライドさせるだけで楽しそうだ。
いや。ピタリと手を止め、眉間にしわを寄せる。
「いや、しかし……未来から……」
大人の悲しさ。私が未来人という事実を受け入れられないご様子だ。常識にとらわれおって。
こういうときゲームのイケメン武将とかなら『信じよう。おまえの言葉なのだから』とか言い切ってくれるぞ。
「じゃ、これなら信じてもらえるでしょ」
私は尾形さんの隣に並び、スマホを奪いとる。
「おい、なにを――」
ピロリン♪
シャッター音。
「!!」
山猫がビクッと毛を逆立てる。
「梢。今、何をした。爆発するのか?」
「しません、しません。これを見て下さい」
「…………」
スマホに写ってたのは、今しがた撮った自撮り写真だ。
ビクッとした顔の尾形さんと、笑顔の私が写ってた。
「こんなこと、トリックでは無理でしょ?
それに私が天才詐欺師なら、こんな手間暇かけてあなたをだますより、さっきの西洋人から五百円受け取って逃げてますよ」
尾形さんは写真を長いこと凝視し――ついに頷いた。
「……分かった」