【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
西洋人のオッサンはヒッと怯えたが、やっと商人モードに戻ってくれる。
「五円デ……」
「話にならん。行くぞ、梢」
「ういっす!」
「ご、五円五十銭出しマス!」
と、喧々諤々(けんけんがくがく)としばらく値段交渉した末に――。
「……全部で十円で買いまショウ!」
十円。この時代の公務員の約一月分の給料だ。
日用品が破格の大金に化けた。旅費としては満足とは言えないが、節約して使えば、しばらくはどうにかなる。
「梢。どうする?」
尾形さんがそう聞いたということは、彼も妥当な額だと思ったんだろう。
「分かりました。ではそのお値段で」
私たちは握手をし、取引成立となった。
山場を乗り越えてホーッと肩を落とす。
支払いは速やかに行われた。
尾形さんの指示で、金は硬貨やお札を混ぜて払ってもらった。
それを盗難防止のため何袋かに分け、別々の場所にしまった。
「梢。とっとと行くぞ」
取引が終われば、尾形さんはこの場に興味はないらしい。
「それじゃ、毎度ありがとうございました。では~」
私もお金を大事にしまい、西洋人のオッサンに頭を下げた。
だがオッサンは未練がましく、
「梢サン。マダ売り物があるのでは? あれば高く買いマスが。そのRucksackとか服とか――」
……まだ掘り出し物を隠してると思われてるなあ。
本当は、リュックも洋服も『目立つから売れ』と尾形さんに言われたんだけどね。
でも今後のことを考えれば売りたくない。
着物姿で山越えは厳しいし、百年後のリュックより、丈夫で優れた収納袋を探すのも難しい。
「いえいえ、これは安物です。もう何もありませんよ。では――」
と、リュックを背負い直したとき、ポケットからポロッと落っこちた。
「ん?」
「What?」
「あ――」
ス マ ー ト フ ォ ン 。
ポケットから落っこちた。
いや最重要な貴重品なので、うっかりリュックから取り出さないようポケットに入れといたんだけど……それが裏目に……。
「うおわああああ!!」
大慌てで拾ったら、画面が光った。
どうやら動いているうちに電源ボタン押されてたらしい。
動かすと自動で顔認証しやがり、ロックが解除される。
うわあああ!!