【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
とりあえず話を戻した。
「私の魅力に参るのは結構ですが、そうやって延々と面倒見ててもキリがないのでは?」
「飼ってたスズメが、野に放すなりカラスに食われりゃ後味悪いだろうが」
ヘッドロックで、私をしめあげつつ仰る尾形さん。いだだだだだ!
あとですね! あなたが鳥獣を慈しむというシチュ自体、想像不可能なんですがっ!!
しめあげられたまま、私は言った。
「私が安全に住める場所と、食べていく道。簡単に見つかるもんじゃないでしょうが」
元の世界に戻るのが旅の目的だが、とりあえずは先方の思い込みに話を合わせておく。
「…………」
尾形さんがふと黙り込む。何かを考えているような表情だった。
私はしめつけから脱出し、もう一回尾形さんにもたれる。
敵は無言ながら、優しく私を抱き寄せてくれた。
静かだった。とても。
「月がきれいですね」
「ああ、きれいだな」
珍しく感傷的なことを言う尾形さん。私は彼の腕の中であくびをした。
「そろそろ寝ましょうよ」
昼は歩きづめで、夜はセックスだの温泉だので身体が疲れてる。
でも本当はもっと、尾形さんと色々お話がしたい。この人のことが知りたい。
だが私は固まってしまう。軽口やいじりトークならいくらでも浮かぶのに、いざ真面目に『ちゃんと』お話しましょう、となると頭が真っ白になるのだ。
「どうした? 梢」
ええと……ええと……。
「お、尾形さんは、何で徳川埋蔵金を探してるんですか?」
「だ・か・ら、アイヌの金塊だって言ってんだろ。おまえ、頭ン中に綿でも詰まってんのか?」
うおわああああああ!!! だだだだだって!! 間違って覚えちゃったから!! そういうのって、なかなか治らないじゃんか!!
「何でもないです。もう寝ます」
打ちひしがれ、のそのそと這って布団に戻ろうとしたら。
「まあ待てよ」
……後ろから抱きつかれた。
だがあいにくと、胸に生まれた熱い炎はとうに鎮火している。
「無理。もう無理っす。寝たいんです」
体重をかけられ、四つん這い不可能になる。私はなおも、ずりずりとほふく前進で進もうとしたが。
「寝たけりゃ勝手に寝てろ。俺は好きにさせてもらうからな」
この犯罪者が……。