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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第7章 尾形さん3



 自分から誘ったくせに、尾形さんは不満そうであった。

「……どこが『広い』だ。狭いじゃねえか」

 とっととかけ湯をし、湯船に入ってしまう。
 うーん。部屋付きの風呂というから期待したが、確かに狭い。
 これなら家の風呂の方が広いかなあという狭さだった。

「こういうのは西洋のお客さん向けなんでしょうね。
 あちらの人は他人に裸を見られるのが嫌みたいだし」
 作りは割と近代的。隣の部屋との敷居もしっかりしていた。

「知るかよ。これじゃロクにくつろげねぇ」
「じゃあ大浴場に行けばいいでしょうが」
「気が乗らねぇ。大体、大風呂に『これ』は持ち込めん」
 と、岩に立てかけた『持ち込み品』を指す。

 私はしばし沈黙し、
「……尾形さん。『それ』は手ぬぐいと間違えて持って来たものでしょうか?」
 私はざばぁっと、桶に汲んだ湯を身体にかけながら言った。

「は? 何言ってんだ。おまえも早く来いよ」
「…………」

 尾形さんは『頭は大丈夫か?』という目で私を見た。
 いやその表情、そっくりそのままあんたに返したいわっ!!

 三十年式歩兵銃! 風呂場にまで持ち込まなくてもいいでしょうが!

 旅のときもそうだが、水浴び中だろうとセックスの最中だろうと、この男はとにかく銃を近くに置きたがる。
 戦争の後遺症か? 心の傷か!? 実は繊細!?

「おい梢。入らねえのか? 風邪引くぞ」
「いつの間にか先に入っているし!」
「最初から入ってるだろ。おまえが遅いだけだ」

 屈辱! 絶対繊細じゃないって! 
 私はざばぁっとお湯をかぶると、湯船に足を入れた。

「…………ホントに狭い」

 いい湯なのだが、狭い! どこが夫婦にぴったりだ。
 ほぼ一人用でしょうが!

「尾形さん、出て下さい。あなたが幅を取ってます」
 筋肉質な軍人の肩を押すが、ビクともしない。
「そりゃ悪かったな」
 おわ! こっち来んな!!
「うわあああ! つ、つぶれる!!」
 岩と山猫に殺される!! 私が死を覚悟したとき、

「じゃ、これならどうだ?」
「ん?……わ!」

 ふわっと抱き上げられ、尾形さんの腕の中に閉じ込められる。

「これなら二人で入れるだろ」
「あー、なるほど……て、言うと思ってました?」

 私は氷よりも冷たい声で言う。

 どういうことかと言うと――。

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