【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
そして数日後、町についた。
温泉街があってそこそこに人の出入りもある。こっそり動くには丁度良かった。
金持ちや西洋人もそこそこにいるから、足がつかぬよう少しずつ遺品を売っていこう――というのが尾形さんの案であった。
「まず、その目立つ洋装と背嚢(はいのう)からだな。
モノはいいから、洗えば高く売れるだろう」
背嚢とはリュックのことらしい。だがそれより。
「尾形さん、尾形さん、尾形さん!!」
わたくし、デカい温泉宿の前で目をキラキラ。先を行く尾形さんは立ち止まり、
「……あのなあ、梢」
「尾形さん、尾形さん、尾形さん!!」
わたくし、目をキラキラ。ぴょんぴょんとジャンピング。
尾形さんは目をこすり、
「一瞬、おまえに尻尾が生えていたような……」
その尻尾はきっとブンブン振られていたであろう。
すると旗持った客引きに気づかれたようだ。客引きはいそいそと近づいてきて、
「兵隊さ~ん、ご休暇ですかあ?」
そしたら尾形さんは面倒くさそうに客引きに、
「ああ、女房が会いに来たんだが、どこか連れてけってうるさくてな」
一瞬でサラッとウソが出るとか。
……でも『女房』って。
カーッと顔が熱くなる。そりゃ怪しまれないためには、夫婦を装うのが一番だけど。客引きさんは揉み手で、
「それでしたらぜひ当宿に! うちは部屋風呂も広いんですよ。ご夫婦のお泊まりにはぴったり! 料理も豪華で――」
ほうほう。料理が豪華とな。
わたくし、ツツツと尾形上等兵殿に近づき、外套の袖をそっと引いた。私を見下ろす尾形さんに上目遣いで、
「あ・な・た♡ 私、ここに泊まりたいです♡」
「ほら~旦那さん。奥さんもそう言ってることだし!」
「………………」
果てしない沈黙の後、尾形さんは深々とため息をついたのであった。
…………
…………
そして宿の一室に案内された。
「ぐだ~」
畳の上で大の字になれる幸せっ!! この国に生まれて良かった!!
「おら」
「きゃー」
意地悪そうな軍人に、足で腹をグリグリされる。
「おまえはタダでさえ目立つのに、余計に目立つことをしやがって」
「いーやー」
足で転がされ、畳の上を数回転させられる。そして。
「メシの前に風呂に入るぞ。来い」
「はーい」
……。
…………え。