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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第7章 尾形さん3


 私は尾形さんから離れた。

「じゃ、ちょっと川で水浴びしてきますね」

 アイヌの人たちが大事にしてる水場を汚すのは申し訳ないが、精神的に限界だ。
 そ、それにここらへんには何の集落もないし!

「一人で行くつもりか。俺も行く」

 銃を担ぎ直し、尾形さんが立ち上がる。
「いいですよ。大丈夫だから、そこらへんに転がって死んでて下さい」
 つっけんどんに言うと、
「何だ、怒ってるのか? おまえも喜んでたじゃねえか」
 ニヤニヤニヤと笑っている。殺意がわくなあ!
「ボタン、外れかけてるし! 後で絶対縫ってあげないし!!」
 ツンとそっぽをむくが、追いつかれる。馴れ馴れしく肩を抱き寄せられた。

「怒るなよ梢。後で何か撃ってやるから」
 獲物で女を釣るとか。原始的な機嫌の取り方ですなあ。
 しかし、夜の運動で私のお腹もグーッと鳴ってる。

「……ウサギがいいなあ」
「任せとけ」

 抱き寄せられ唇を重ねられる。
 私は脱力しながらも山猫にもたれ、水場に降りていった。

 …………

 その後は、旅ゆえの不便も多いが楽しい道行きだった。

「尾形さん!! ゆ、ゆ、揺らさないで!! 落ちる! マジ落ちる!!」
 吊り橋渡れない。落ちれば即死の谷で、私は綱に捕まって震えていた。だがそれを見てる男は笑って、
「あのなあ。ここは荷馬車も通る吊り橋だぞ? こんなところで怖がってどうする」

「だ・か・ら! 揺らすな!! 尾形!! マジぶっ殺すぞ、てめえ!!」
「おまえ、本気で怒ると女とは思えん口の利き方するんだな。これならどうだ?」

「だから! 揺らさないで! 落ちる! 本気で落ちる-!!」

 谷間に乙女の凄まじい絶叫が響いたのであった……。

 前言撤回。全然楽しくねえ!!  

 …………

「悪かった悪かった。まさか腰が抜けるとは思わなくてな」
 私をおんぶしながら、山道を降りるクソ猫。

「殺す殺す殺す! マジ殺す!!」
 双眼鏡で周囲を確認しながらも、ポカポカ頭を叩くわたくし。
「はは、悪かったって。また美味い物を撃ってやるから」
 笑って道を降りる尾形さん。
 
 ……楽しそうだな。

 杉元さんたちと居たときは、一線引いてるというか固い雰囲気があった。
 でも今は肩の力が抜けた感じ。とてもリラックスしてる。

 私が原因なら良いのになあ、と思った。

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