【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
けど口調はぶっきらぼうなものの、彼なりに心配してくれてるのは伝わってきた。
正直驚きを隠せない。
「そのことは朝、説明したでしょう。占い目当てで人捜しをするんじゃないです。
インカラマッさんに、今後のことを相談したいだけです」
「なぜその女なんだ」
尾形さんは本気で理解出来ない、という顔だ。
「命を救われたとはいえ、今、北海道のどこにいるかも分からん女をなぜ捜す。
土方や永倉、鶴見中尉、それこそ月島軍曹でも喜んでおまえの相談に乗るだろう。
なぜ他の誰でも無く、アイヌの占い師に頼る」
「それは……」
無理。説明不可能。だが返答に窮する前に、気になることがあった。
尾形さんがまた不機嫌になってるっぽいのだ。
猫で言うなら尻尾てしてし。
「……あの。私が尾形さんに相談しないのは、理由あってのことではなく、ご迷惑かなあと思っただけで」
「!!」
猫は明らかにビクッとなっていた。
だが声だけはあくまで冷静に、
「は……はあ? 何を寝ぼけたことを言ってやがる。
別に俺はおまえに相談されたいなんざ全く思っていないからな」
あ。うん……。
クール一辺倒かと思いきや、焦るとボロが出るタイプなの?
「……相談に乗れなんて迷惑極まりない。
だが、おまえがどうしてもと言うのなら、話してみろ。答えてやらんこともない」
聞こえるか聞こえないかの声で、ボソッと呟かれる。
面倒くさい人だな。
なーんて思考が脳裏をかすめたことはおくびにも出さず、
「では聞きますが、さっきの鹿汁の味付けはどうでした?」
「相談と言っただろう。質問じゃねえか」
「真剣な問題ですよ! だってしばらくは尾形さんのお世話になるんです。味付けは重要じゃないですか!」
すると尾形上等兵殿は、はーっと本日何回目かのため息をつき、
「先のことより俺の好みの方が心配か? それじゃ、まるでおまえが俺の――」
瞬間にハッとしたように尾形さんが言葉を止める。
「『俺の』、なんですか?」
どんな皮肉だろうと、ドンと来いと構えるが、
「………………」
「え?」
尾形さんがフードを被っていた。
「いやちょっと! いきなり何で顔を隠すんです。
『俺の』、何? それと結局味付けはどうなんです!?」
ゆっさゆさと山猫を揺さぶるが、敵は黙して応えなかった。