【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
そういうわけで私と尾形さんは、また旅を始めたのだった。
さて、どんな寒々しい旅になるかと思ったのだが。
「尾形さん、尾形さん!! あそこに鹿がいますよ! 鍋にしましょう!!」
「大声を出すな、梢。逃げられるだろうが」
「あ! あの枝にたくさん成ってる木の実、食べられるんですよ。
インカラマッさんが教えてくれました! 晩ご飯に使いましょう!」
「勝手に木に登るな。周囲に誰もいないか俺が確認してから――」
「尾形さん、つきました! 今、枝から落とすから、拾って下さいね!」
「…………」
「うーむ。これって毒草だっけ、薬草だっけ……インカラマッさんは何て言ってたっけなあ。ま、食べて死ななけりゃいっか。採っとこうっと」
「おい止めろ!」
どうしてだかサッパリ見当もつかないが、尾形さんが疲れたお顔をされる旅となった。
…………
…………
夜風が気持ちいい。鍋もぐつぐつと気持ちの良い音を立てていた。
「尾形さん、どぞ」
お夕飯の鹿汁を器によそい、尾形さんに渡す。
「おまえを夕張に連れて行った占い師の女、よくキレずにおまえにつきあってたもんだ」
げんなりした顔で受け取る上等兵殿。
「あのときは、病み上がりでぐったりしてましたからね」
それでもアイヌの人から直に聞く知識。
必死に聞いて、なるべく覚えたつもりだ。
「そうかそうかそうか。そりゃ病んでりゃ大人しいな。
やっぱりあのときの毒草を採取しておくんだったぜ」
だから笑顔が怖いて。
…………
焚き火がぱちぱちと燃えている。
食事も終わり、足のストレッチしていると、尾形さんが銃を点検しながら言った。
「近くのデカい町で、西洋人に遺品を高く売りつける。
その金を元手に商売を始めるなり、家を借りるなりすればいい。
だがおまえは、鶴見中尉殿によほど気に入られたようだな。
第七師団は、まだおまえを捜しているらしい。
北海道そのものを出た方がいいだろう」
「いえ私は小樽で人を――」
言いかけたが尾形さんに手で遮(さえぎ)られる。
「占いに頼るな、金をむしり取られるだけだ」
アシリパさんみたいなこと言うなあ。
「おまえは変な女だが頭は良いし、学もある。
占いで先を決めなくとも働き口はいくらでも見つかる」
褒めてるんだか貶(けな)してるんだか。