【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第1章 尾形さん1
たまたま住むことになった古民家の庭が、どうも明治時代末期――今から百年以上前の北海道につながっているらしい。
自分で言ってて正気を疑う話だが、本当らしいのだ。
繰り返そう。
私が住むことになった古民家の庭で! 百年以上の時を経て! 明治と令和が! つながってる!!
…………
今日も私は、庭の見える縁側に行く。
庭には木が何本かと生け垣が見える。その向こうは何もない草むらだ。
だが何となくピンと来る。
誰か来そうな気がする。
だから私は紬(つむぎ)の着物を着、お茶と茶請けの菓子を用意し、縁側に座布団を敷き茶をすする。
着物も最初のうちは着付けも着こなしも分からなかったが、今は慣れたものだ。
え? 何で庭が明治の北海道とつながってるって分かったのかって?
おっと、庭の向こうから足音がする。それはまた別の機会にお話しよう。
私は周囲の最終チェックを行う。スマホは座布団の下へ。『現代日本』のテクノロジーを封印する。
何しろこれから来るのは、本物の明治の軍人さんだ。
うっかり現代のテクノロジーを披露して万が一それを持ち帰られたら、歴史を変えてしまう。
最悪、私自身が消えてしまうのだ。
さらに着物の乱れがないか確認し、髪を整え伏し目がちにする。
これで『親族の屋敷で静養している、虚弱な令嬢』の完成である。
そして草を踏む足音がした。それは生け垣を越え、まっすぐに私の元へ。
「……またあんたか」
いや、来といて何すか、その言い方。
まるで近所から来たように軽い調子なのは、古い――いや当時のものとしては最新式の銃を肩に担いだ軍人さんである。
尾形百之助と名乗った。猫を連想させる目元に頬の手術痕が特徴的だ。
何度も会っているが、未だに得体が知れないし、時々殺意みたいなものを感じる。
……まあ向こうにとっても『唐突に現れる庭にいつも居る女』とか、完全に妖怪だわな。
あと片手に三羽ほど、鳥をぶら下げてるのが気になるが。
「……何でいつもここに出るんだ。俺はこの前あんたと会った場所からは離れた場所にいたし、歩いていたのも雪の山中だ。
ここは本当にあの世じゃないんだな?」
いや私に言われても。
「多分」
「多分って何だよ」
百年以上先の令和の日本です、なんて言えないよなあ。