【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
そしてその日の午後。
……。
…………。
初夏の香が漂う、北海道の山奥の道。
私は重いリュックを背負い、先を行く尾形さんをひたすら追いかける。
うーん……。
尾形上等兵は、私を待ちがてら立ち止まり、双眼鏡で周囲を確認してた。
私の視線に気がつくと、
「何だよ」
「いや何で尾形さんがここにいらっしゃるのかと」
「……いちゃ悪いのかよ。今からでも帰っていいんだぜ?」
「いやあ、その……でも……」
冷たい言葉を投げつけられてるようだが、実は尾形さんの機嫌はそこまで悪くない。
そこそこつきあって、身体の関係までもった今だから分かることだ。
しかし分かるのは機嫌程度だ。一体、何を考えてどういう基準で動いているか、未だに得体が知れない。
そんな人が私のために一旦、今の仲間から離れた。
正直、ここにいるのが牛山さん、もしくはアシリパさん、百歩譲って杉元さんだったとして『まあ、そんなこともあるのだろう』と私は受け入れただろう。
だけど何で尾形さん?
「失礼ですが何を企んでらっしゃるんですか?」
「本当に失礼な女だな。世間知らずの女が、夕張近くから小樽まで一人旅? 死にに行くようなもんだろうが」
「それはそうなんですが……」
その理屈はよーく分かる。分かるんだけど。
『だからって、誰かを心配してついてくような性格でしたっけ? 尾形さんて』……と思ってしまう。
あまりに失礼すぎて口に出せないが。
尾形さんじゃなさすぎる。私が瀕死の状態だろうと、自分の益にならなければ平然と見捨てる人だと信じていたのに!
……この失礼な感情が、思い込みで無い証拠に――尾形さんの申し出を聞いたとき、牛山さんたちは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
真っ先に動いたのは杉元さんで、尾形さんの胸ぐらつかみ、
『てめえ!! この子に身寄りが無いのにつけこんで、売り払おうとか考えてんじゃねえだろうな!?』と怒鳴った。
『尾形……おまえ、どこかで頭を打ったのか? 今、薬草を探してくるから待っていろ!!』
と真剣な表情で走り出そうとしたアシリパさん。
『梢さん、いいのかい? (尾形が)心配なら俺もついていこうか?』
と真顔の牛山さん。
…………人望ないんだなあ、尾形さん。