【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「アシリパさんは彼女にお遭いになったことがあるんですか? 彼女はどこに行くと?」
「前に会った。確か小樽の方に行くと言っていたが、あれからかなり経っている。今もいるかどうか分からない」
どうでも良さそうなアシリパさん。それよりも。
ま た 小 樽 か 。
いやいやいや。次こそ片道切符の旅にしてみせる。
インカラマッさんに助けてもらって令和に戻ったら、今度こそ! 二度と! 永久に! 明治時代には来ないからな!!
「こんな状況で人一人捜して小樽まで戻るのかい? 難儀なこったな」
と牛山さん。
「こいつはまた後先考えず、ムチャクチャ言いやがる。
あんな広い場所で、見つからなかったらどうすんだよ」
と意地悪な山猫。
後先考えてるわ!! 事情を説明出来ないだけで!!
「私のコタンには親族がたくさんいる。私の名前を出せば、皆、チロンヌプを捜すのを手伝ってくれるはずだ。
もし見つからなければ、そのままフチ(祖母)のチセ(小屋)に住め。フチも喜ぶ」
うう。昨日会ったばかりなのに。明治時代の人情の厚さ。
マジで涙腺が緩みそう。
けど、ご厚意に甘えるワケには行かない。
私は戻るべき場所に戻る。
この決意だけは、今も揺らいでいない。
「なら、俺たちとは行く方向が違うな」と牛山さん。
行く方向?
そういえば尾形さん達は何の事情でこのメンツで組んで、これからどこに行くのだろう。
姿の見えない土方さんたちは無事なのか?
聞こうと思ったが、喉元で言葉を止めた。
彼らが相当ヤバいことをしてるらしいのは、段々飲み込めてきた。
私は巻き込まれたくない。なら情報から遠ざかるのが一番だ。
尾形さん……あまり危ないことをしないといいけど。
「梢。近くの町まで送るぞ」
「いえアシリパさん、皆さん、本当にありがとうございました。
でも一人で大丈夫です。お名残惜しいですが――」
とリュックを抱え直したとき。
「ちょっと待て」
割って入ったのは、尾形さんであった。
「あ。尾形さんも色々お世話に――」
「一人で大丈夫? ついこの前まで屋敷で甘やかされてた奴が、どの口で言ってるんだ」
「いや、でも大丈夫だと思――」
けど続く言葉に、私だけで無く皆が目を丸くした。
「途中まで、俺がついていってやる」