【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
そして縫い物も一段落し、さあ出発――ということになるんだけども。
「梢さんはこれからどうするんだ?」
牛山さんが聞いてきた。
皆の認識では、私は『死去した没落富豪の妾の子』ということになっている。
一人ではるばる亡父の葬儀に行ったが冷遇され、なけなしの遺品を押しつけられ追い出された――と。
いやあ可哀想だな、私!
……むろん一から十まで創作実話なのだがネットもない時代、真偽の検証は困難っぽい。
私にしても、自分の素性を説明する手段が他に無い。
変に怪しまれるよりはと、皆の思い込みに話を合わせている次第だ。
「どこかの町に親類がいるなら、行けるところまで送っていくぞ。
行くあてがないのなら、私のコタンに来ればいい」
アシリパさんが頼もしい!! 私はうるっと来そうな目を押さえて言った。
「ありがとうございます。でも行くあてというか……捜している人がいるんです。
インカラマッという占い師の女性をご存じですか?」
インカラマッさんは、初対面で私を『この時代の存在ではない』と見抜いた人だ。
私が令和に戻る方法と、永久に明治に戻らなくて済む方法を、何としてもご教示願いたい。
「…………」
ん? 名前を出した途端、アシリパさんがめっちゃ渋い顔になった。
「梢。おまえ……チロンヌプ(狐)の知り合いなのか?」
え? 何? すごく嫌そうな顔だ。
インカラマッさんって、もしかしてアイヌの人の間で嫌われてるの!?
「梢さん、もしかして占いで今後のことを決めるつもりなのかい?」
と心配そうに杉元さん。止めた方がいい、と言いたげだ。
「大丈夫ですよ、杉元さん。友人として今後の相談に乗ってもらいたいだけです。
私が遭難した状態で夕張までたどり着けたのは、ほとんどインカラマッさんのおかげだし」
と、簡単に事情を説明した。けどアシリパさんは、
「友人? あの狐女は何を考えてるか分からない。
父親の遺品を、根こそぎ取られるかもしれないぞ。止めておけ!」
「アシリパさん。インカラマッさんはそんな人じゃないです。それにむやみに人を疑うのは良くないですよ」
かなり嫌ってるっぽいので、年上としてちょっとたしなめておく。
……尾形さんがしらーっとした目で私を見てる気もするけど!