【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
鶴見中尉は苦手だし、今後、関わりたくも無い。
何せ、この前尋問されたし、その後も家に押し入られかけた。
正直、名前も聞きたくない。
だが鯉登少尉がそれを知るよしも無い。
「そこで私は賊に軍刀をつきつけ、こう言ったのだ!『今後、鶴見中尉殿に指一本でも触れることがあれば、そのときは私が貴様の指を全て切り落とす!』と!」
「ご勇敢なことで……」
「うむ! そうであろう! 鶴見中尉も褒めて下さった!!」
さすがに軍事機密に関するようなことは話さないが、いかに鶴見中尉がすごい人かということと、それに伴う自慢を延々とされる。
とにかく話題を変えたい。
「おい、梢! 聞いておるのか!?」
「ええ聞いてます聞いてます。それより、音之進様の郷里のことをもっと聞きたいのですが……」
「またか?」
「ええ、是非とも!」
何せ彼は薩摩出身。やはり当時の話は気になる。
西郷隆盛が生きた世界が、ほんの何十年か前という時代だ。
その頃の薩摩の人たちの暮らしぶりとか物の考え方とか、百年前への興味はつきない。
「そう言われても、美しいところではあるが面白い話など何もないぞ?」
「そう言うのが、聞いていて一番楽しいんです」
と、私は笑った。
「そうか? そうだな。私が育った屋敷では……」
鯉登少尉は首をかしげながらも、話してくれた。
しばらく、二人の笑い声が響いた。
…………
そして色々聞いた後で、私は言った。
「音之進様、そろそろ鶴見中尉様の所にお戻りにならなくていいんですか?」
効果てきめんであった。
「! そうだ!! 私には戻るべき場所がある!!」
鯉登少尉は立ち上がり、障子をガラッと開ける。
うお、寒いぃ!!
私もコタツから出て、お見送り態勢である。
すると鯉登少尉は振り返り、縁側に立つ私に、
「……梢。ここに一人で閉じ込められ、寂しくはないのか?」
「…………」
説明が面倒なので私のことは『肺を病んで家族に疎まれ、ここにいる』という設定で通している。
見捨てられたという話は当たらずとも遠からずというところなので、ウソをつく罪悪感もそれほどではなかった。