【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
火鉢あったかいなあ。
私は台の上にお茶と茶菓子を置いて、スッと鯉登少尉に出した。
「さて、そういうわけで本日の茶菓子は――」
「おお! 明石屋の軽羹(かるかん)ではないか!」
私が全て言う前に鯉登少尉の声が弾む。
「え? ご存じなんですか?」
「もちろんだ! 薩摩の人間で知らん者はない!」
え……そんなに老舗の店だったの?
『薩摩』『和菓子』でヒットした商品を通販で買っただけなのに。
故郷の菓子なんて、飽きたと言われるかと思ったが、少尉は超嬉しそうだった。
さっそく手を伸ばし、
「ふむ。しばらく見ないうちに少し包み紙がハイカラになったようだが――ああ、これだ。この山芋の匂い!
ほら、おまえも食え。美味いぞ!」
いや私が買ってきたもんだし。
「昔はよく食べたものだ。まさか北海道に来て郷里の味に会えるとは!
おまえは相変わらず不思議な娘だ。どうやって遠く離れた明石屋の菓子を買ってきたのだ!?」
通販です。
「そういえば、貴様は仮にも良家の娘だったな。
――っ! まさか、おいのために縁故の者にでも頼んでわざわざ薩摩から……!?」
通販です。
「そうか。おまえはそこまで私のことを――先ほどの無礼な物言いを改めよう」
鯉登少尉は顔を紅潮させるが、すぐにしかめ面で首を振る。
「……だが私の家は古くから続く薩摩の一族。おまえも良家の娘だ。
互いにこれ以上親交を深める理由はない。
だが、これだけは言わせてほしい…………私のために故郷に出向いてまで……その気持ちは受け取っておく。ありがとう」
通販です。
…………
茶菓子が片付いて、私はコタツに足を突っ込んだままウトウトしていた。
しかしとっとと帰ればいいのに、うるさい客がいた。
「それで、そのとき鶴見中尉殿が仰ったのだが――!」
「はあ」
「鶴見中尉殿は実に素晴らしい御方で――!」
「ほお」
「そこで鶴見中尉殿がだな――!」
「ふーん」
……うるせえ。
つか鶴見中尉の部下だったのか、あんた。