【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
「通いのお手伝いさんもいるし、父も何かと物を送って下さいます。
生活に不自由はありません」
この古民家に来る家族はいない。だが大抵のことはネットでどうにかなるのが現代の良さだ。
「不自由が無ければ良いというものではなかろう」
鯉登少尉がボソッとつぶやく。
良いとこのおぼっちゃんなせいか鯉登少尉は、『物の充足が心の充足ではない』という現代的な感覚が分かるようだった。
だが私は世間知らずの小娘のフリをする。
「この不思議なお庭のおかげで、北海道にいらっしゃる少尉とお話も出来ます。とても楽しいですよ」
風に髪をなびかせ、ふわりと微笑んだ。
「…………っ!」
鯉登少尉が少し目を見開き私を見た。彼は何を見たのだろう。
「……そうか」
そう言って、顔を隠すように軍帽を被り、
「次は私も何か持ってこよう。今度はおまえの話も聞きたいな。おまえ自身のことをもっと――」
「私ですか? 私の面白い話なんて、何もないですよ?」
人に興味を持たれる理由なんてない。
「うおわ!」
いきなり額を指で弾かれた。何だ!?
かと思うと、鯉登少尉が大きな手で私の頭を包み、笑っていた。なでなでというか、わしゃわしゃである。
何をする!
「わいほど、おもてしかおなごはおらん(おまえほど面白い女はいない)」
え?
「さて、鶴見中尉殿が私を必要とされている!」
意味がよく分からないうちに、鯉登少尉は足早に帰っていった。
明治の軍人さんが去り、庭は元の静かな庭に戻った。
やれやれとため息をつき、部屋に戻ろうとした。
そのとき、あるものが視界に入った。
「ん? 鳥?」
縁側の下をのぞくと。
「…………」
銃で撃たれた鳥が三羽。
いかにも放り投げた、という感じで縁側の下に無造作に転がっていた。
たまたま物陰になってて鯉登少尉は気づかなかったようだが。
私はしばらくフリーズし、
「……毎回一人だけってワケじゃなんだあ」
冷たくなった鳥さんを取りながら、呟く。
もしや『ねこあ〇め』方式なのか? この庭って。
えーと、でも軍人さんって、皆お仲間だよね? 戦友だよね。
別に鉢合わせしたからってケンカにならないよね!?
内心焦りながら、贈り主の好物は何だっただろうかと考えたのだった。
――END