【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「確かに聞かれましたよ? でもあなたたちだって徹底して私を情報から排除してたのに、何の情報をどう売るって言うんですか」
江渡貝邸にいるとき、月島さんたちも安穏と私を保護していたわけではない。
名目を適当につけ『土方一派について知っている限りの情報を書いてほしい』と月島軍曹に促されたことがある(そのとき私は声を出せなかったので)。
「で、わら半紙に延々と、隠れ家での鬱憤を書かせていただきましたよ。
あなた方がいかに家事に非協力的だとか、何度言っても靴下を逆にして出すとか、尾形さんの後ろにキュウリを置いてみたらビクッとしてたから爆笑したとか、そういったことを三十枚くらい書いたら疲れた顔で『もう結構です』と言われました」
「……そうだ。何でおまえ、時々俺の後ろにキュウリを置いてた」
だって尾形さんだから☆
…………
「それをわざわざ、こんな離れた場所で聞くんですか? さっき聞けばいいのに」
「あっちには杉元がいる」
杉元さん? 普通の優しそうな人に見えたが。
「あいつは『不死身の杉元』だ。奴らも金塊を狙っている」
「あらまあ」
「……。ああ見えて一度敵だと判断すれば、女でも平気で殺す奴だ。
おまえが土方側にも第七師団側にも通じているということは隠しておけ」
人をコウモリみたいに。ぶっちゃけ彼らが敵対してるのは分かってるが、逆に言えばその程度の認識しかない。
「それと」
「はあ」
「分捕ってきた遺品を、他の奴にむやみに見せたりやったりするのは今後止めろ」
「はあ?」
尾形さんの目は真剣だった。
「舶来の物は言い値で買う奴も多い。上手く使えばそれを元手に商売も始められる。
価値の分からん奴に気軽にくれてやるな。それはおまえの最後の財産なんだ」
えーと……。
「尾形さんって、優しいんですね???」
「……何で疑問符をくっつける」
「自分でもにわかに信じがたく――いだだだだだ!」
こめかみをグリグリされ、痛みにもだえる私であった。
「で?」
ようやく手を離し、尾形さんは言った。
「今度は何ですか?」
「月島と寝たのか?」
「あ、はい」
そのときの殺気。マジで殺されるかと思った。
だが尾形さんは私の肩をグイッとつかみ、
「大人しい顔をして、とんでもねえ女だ」
失礼なことを言い、私に唇を重ねたのであった。