【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「……ん……」
暗闇の中、誰かに揺すぶられて目を開ける。
――尾形さん?
どうしたんですか? と言おうとして、口をふさがれた。
夜目でよく見えないが『ついてこい』とジェスチャーされている。
なので私は皆を起こさないよう、そーっと起き上がったのだった。
…………
…………
皆が寝てる場所から大分離れ、やっと尾形さんが立ち止まる。ここなら声が聞かれないだろうという距離だ。
私は話しかけた。
「どうしたんですか? 勝手に離れたりしたら、皆気がついて捜すかも」
「心配するな。あいつらは馬鹿の集まりだが、この程度は気を遣う」
地面の獣の足跡を確認しながら、尾形さんが言う。
??? 意味がよく分からないが。
しかし周囲が真っ暗で落ち着かない。
クマは夜行性ではないけど、原始の暗闇はそれだけで人を不安にさせる。
「梢」
「はい?」
もしかして、ここでギュッとされ『心配してた……』とかされたりするのでは。
梢さん、ドキドキするが。
「花見の頃、兵隊どもに連れられた、おまえくらいの女がいたという情報が入っている」
そっちかあ!
知らないフリしといて、やっぱ私が夕張に来てるって気づいてたんじゃないか!
「宴会のために呼ばれた芸者でもないようだしと、地元の奴が気になって見てたらしい。
そしたらその娘は宴席で、ケツを触った兵士を酒瓶で殴りつけようとして止められたそうだ。それを聞いた俺たちは『その娘は梢だろう』と見当をつけた」
……もっと別の見当のつけ方をしてくれ。
酒を言い訳にしたセクハラは許すまじ。しかもあのときは声が出なかったのでケンカっ早くなっていた。
『すみませんでした、次は空瓶で殴ります』とジェスチャーで月島さんに謝ったら、ものすごいため息つかれた。
「本当は第七師団に捕まってたんだろう?」
捕まってた、というのかなあ。
「ケガをしたところを、たまたま夕張にいた月島さんに見つかり保護されていたんです。だから連絡出来なくて」
「『たまたま』ねえ」
尾形さんは皮肉げだ。発見者=犯人なのだが、そこまで言うとややこしいので黙ってる。
あ。もしかして心配してくれたのかな?
「俺たちの情報を、第七師団に売ったのか?」
……デスヨネー。