【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
「ご両親もいないのに、これから大丈夫なのかい?」
杉元さんはずいぶん同情してくれてるようだ。
「梢はどこの町に住んでいる? 近くなら送るぞ?」
アシリパさんが聞いてくる。変だけど良い人たちだ!
でも返事に困る!!
「お気遣いありがとうございます……でもここに来るまでは本当に大変だったのです。話せば長いことながら……」
「梢。話して楽になるなら私たちは聞くぞ?」
何か察したのか、ミネストローネ(改)をパクパク食いながら言うアシリパさん。
「辛くなったら、止めていいんだよ?」
猛烈な速度で鍋を消費する杉元さん。
なので私も、
「食事中にするような話ではないかもしれません。ですがそもそもの私の不運は尾形という男と会ったことであり――」
――中略――
空になった鍋を前に、アシリパさんと杉元さんは、『ううっ』と涙を拭いている。
私はまぶたをぬぐいながら、
「そういうわけで母と死に別れ、父も亡くなり、義理の家族に下女同然に扱われてきた私は、その困窮の果てに尾形というクソ軍人に全てを奪われ、ついに悲嘆にくれて崖から身を投げたのでした。
せめて来世は幸せな家庭を築きたい。そう思い飛び降りた梢を見守っていたのは、海岸の松の木だけでした――完」
ぐずぐずと杉本さんは涙を拭き、
「その尾形というクソ野郎は何て外道なんだ!! 梢さん! そいつを見かけたら俺が必ず殺しておくから、どうか成仏してくれ!!」
「うんうん。お願いしますよ。そいじゃ、そろそろ鍋を洗って――」
「何、アホな話をしてんだ、おまえら」
呆れかえったような声が聞こえた。
私は目を見開く……この声……まさか……こんなところにいるなんて……。
「おい杉元、外道がいるぞ」
アシリパさんが、現れた尾形さんを指さした。
すると杉本さんは般若の形相で振り向き、
「てめえ!! よくも天涯孤独の可哀想な子を殺してくれたな!!」
とパンチを繰り出す。奴はそれを華麗に避けながら、
「俺には金目のものを分捕れるだけ分捕って、とっとと葬式から逃げてきた図太い小娘の話にしか聞こえんが……」
勢い余った杉本さんの背を押して派手に転がし、尾形百之助は前髪をかき上げたのだった。