• テキストサイズ

【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第7章 尾形さん3



 ――中略――

 夕飯のミネストローネスープが完成した!

「しょっぱい!」

 一口食べたアシリパさんは『うげぇ』という顔だった。
 そらただでさえ、現代風に濃い味付けのミネストローネ。
 それに血抜きもしてないウサギを入れりゃ、しょっぱいわな。

「でも美味いよ? このミネ何とか?のちょうど良い酸味が素材に染みこんで、噛んだ瞬間に口の中に甘みが広がる。
 ウサギとじゃがいもの相性もこんなに良いと思わなかった。梢さんの鍋、ヒンナだぜ」
 ミスター杉元は、なぜ一人で詳細な食レポをしてるんだろう。あとヒンナって何。

「とはいえ、このままじゃ食べにくいですし、今からでも水を足しましょうか」
 ミネラルウォーターのペットボトルを開け、中を少し鍋に注ぐ。
 杉本さんが不思議そうに、
「ガラス? すごく薄いし軽そうだね」

 しまった……ペットボトルの発明は1974年。
 この二人がツッコミ所満載だったから、つい普通に出してしまった。
 だがこの程度ならごまかしはきく。

「ええ。アメリカの発明品で、超薄型ガラス瓶なんですよ。軽くて携帯に便利」

 ペットボトルをリュックにしまいながら言う。杉元さんはリュックをしげしげと眺め、

「それもアメリカ製? ずいぶん良い物みたいだけど、今そういうのが流行ってるの?」

 この時代にリュックはさすがにあるが、まだ登山愛好家しか使ってない。
 こっち方向に話を広げたくないな。

「詳しくは私にも分かりません。外国かぶれだった父の遺品を押しつけられたので」
 話をそらすために、うつむきがちに言う。

「……父の遺品? そういえば梢は何でこんな山の中に一人でいたんだ?」
 アシリパさんは気になるようだった。

「父の葬儀に行ってきました。でも私は妾の子で、すでに母も亡くしています。
 不義の子が家に入るなどとんでもないと拒まれまして。焼香だけでもと懇願しましたが適当な遺品を押しつけられ、寒空の下に追い出されました。
 最後のお別れも叶いませんでしたが、父を想いながら夜道を急いでおりました」

 そっと袖でまぶたをぬぐう。

「何てひどい話なんだ!!」
「……そんなことが。辛かったね、梢さん」
 憤慨(ふんがい)するアシリパさんと、優しく慰めてくれる杉元さん。

 うんうん。私もそう思うなあ。

/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp