【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
彼は最近、この庭に来るようになった軍人の一人で、鯉登少尉と仰る。薩摩出身のエリートで、お父上は海軍少将だそうな。
「またこの庭に出たから来てやった!! せっかくだから、茶でも飲んでまた話をしてやろうと思うのだが!」
いや、茶を出すのはこっち側だし。今日は寒いから外出たくないし。
今日は休む! もう決めたの!!
「申し訳ありません……今日は肺の調子が少し良くないようで」
ゲホゲホとわざとらしい咳をした。
すると障子の向こうの影はビクッとしてた。
「なっ!? わいの親は何をしちょっと!?」
……いつも唐突に薩摩弁になるの、何とかしてくんないかなあ。
「……家の者に使いを出すほどではございません。
ですが音之進様に病を移しでもして、音之進様の大事なお勤めをお邪魔するようなことがあれば大変です。
お茶をお出し出来ず申し訳ありません。今日はどうかお引き取りを」
まあ軍人さんだし、病気は怖かろう。
案の定、障子の向こうの影はしばし逡巡し、最後に、
「……分かった。養生しろ」
「ありがとうございます、音之進様」
いやいいけどさ。何で私がお礼を言う流れになってんの。
でもおかげで、足音は遠ざかる。
よーし、これで、のんびり休日を満喫出来るぞ~。
私はゴロンと畳に横になり、寝ながらミカンを剥く。
草を踏む心地良い足音は、生け垣に向け順調に遠ざか――。
ん?
足音が止まったかと思うと、急に駆け足になった。
一気にこちらに走ってきて。
勢い良く、障子が開けられた。
「梢!! おいは――!!」
そして日に焼けた薩摩隼人が見たものは。
「…………わいは何をしちょる」
「何もしていません」
コタツに入って寝そべりながら、ダラダラとミカンを食ってるわたくしであった。
…………
…………
鯉登少尉は、いたくご立腹であられた。
「まっこて、ずっさらしおなごじゃ!」
とりあえず罵倒されているらしいことは分かる。
「人の生活態度にブツブツ言うなら、コタツに入ってミカン食うの止めてもらえます?」
だが鯉登少尉はミカンを食う手を止めず、
「仮にも高等女学校を出た良家の子女が、そのように日々を無為に過ごしてどうするのだ!」
良家の子女違ぇし。