【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
困った。捨てるに捨てられないものが多すぎる。
「そして――これは、これだけは!!」
私はわなわなとスマホを見る。
「割賦(かっぷ)金残ってるし……認証を使えば他の人に操作できないように出来るし!!」
苦しい言い訳とは分かっている。でも、これだけは……これを破壊するのだけは、どうかこれだけは勘弁して!!
「はあ」
オーパーツの破壊はあきらめることにした。
しかし夜の山は暗い。暗いのに、色んな生き物の息づく気配がする。
一人だ。誰も守ってくれない。
「てかお腹すいたな」
パチパチとはぜる焚き火を見る。リュックの中には防災食やインスタントがある。こういうのは食べて消費すべきだろう。
「やってみるか。確かこうして……」
私は焚き火の周りに木を組んで、ガスコンロ代わりにする。
その上に町で買ったちっこい鍋を置いて――中略。
数十分後。
トマトの良い香りが辺りに広がった。
「フリーズドライって便利だなあ」
ミネストローネに、ジャガイモだのニンジンだのをどんどん入れていく。
私はぐつぐつと煮える鍋をかきまぜながら呟いた。
「あとはお肉があったらもっと美味しくなるのに」
「あるぞ!!」
――は!?
暗闇の中に突然声がして、心臓が口から飛び出すかと思った。
「え? はあ!? 何!?」
パニックになり振り向くと、
「肉ならある!! さっき狩ったウサギだ!!」
目の前に可愛い少女がいた。青いバンダナ?の文様が美しい。
アイヌだ。片手にお亡くなりになったウサギを、誇らしげに掲げていた。
彼女はよだれを垂らさんばかりで、目は私の鍋に釘付けであった。
「いや、あんた誰ですか!?」
「アシリパ! 連れとはぐれて、焚き火を見つけてここに来たらおまえがいた!!」
『キリッ』という効果音をつけたい感じで、アイヌの少女が返答する。そして、
「アシリパさん! いたかい?」
ガサガサと茂みをかきわけ、もう一人現れた。
少女のお父さんかと思ったら、和人である。
顔に凄まじい傷跡があった。
「…………」
「…………」
私たちはしばし見つめ合った。
「えっと……梢です」
「ど、どうも……杉元佐一です」
なぜかぺこりと頭を下げ、互いに自己紹介をしたのだった。