【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第7章 尾形さん3
前略。独りぼっちで明治時代の北海道に来ちゃいました☆
……。
…………。
そして何日かが経過しました。今日は山中で野宿です。辛いです。
ここしばらくはどこにいたかって? 宿にいました。実は明治時代の硬貨の手持ちがあったので。
万が一、また過去に飛ばされても困らないようにと、オークションサイトで安めのものを落札してたのだ。
そして宿で朝から晩まで『戻れ! 戻れー!!』と念じまくってたが、結局令和に戻ることは出来なかった。
そして今朝、そのお金も尽きて宿を出るしかなくなった。
どのみち、女の洋装かつ一人旅という時点で目立ちすぎ。宿に泊まれたこと自体奇跡だ。
これ以上噂になる前に、夕張を出るしかなかったのだ。
「はあ……寒い」
マッチはあったので、どうにか焚き火をこさえた。
さてこれからどうするか。火に手を当てながら一人静かに困る。
「令和の世界に戻ったら、今度こそあの古民家から離れ、二度と近寄らない」
ただどうやって戻るか。
もう月島さんには頼りたくない。すでに散々迷惑をかけたんだ。
彼とは、あの桜の舞う日に美しく別れたままでいたい。
「なら次に探すのはインカラマッさんか」
美しきアイヌの女占い師。
彼女は私がこの世界の存在ではないと――庭の来訪者を除けば――唯一気づいた存在だ。
あの庭を封じるとか、何かヒントをもらえるかもしれない。
……ただこの広い北海道で、人一人どうやって探すかという問題はあるが。
「そうだ。私物を整理しとかないと」
まずタグやラベルを全て除去し、焚き火で燃す。
そして私が捕まったときや、客死したときのため、この時代に無いものは全て処分しなければ。
ゴソゴソとリュックを漁り、まず取り出したのは――財布。
「…………」
わたくし、そっと財布をリュックの中に戻す。
次に出したのは身分証明書。同じくそっと元に戻す。次に出したのは保険証。そして家の鍵。
「…………」
捨てられるかあ!! 令和に戻ったとき困るわっ!!
後は? タオルにマッチ、熊よけスプレー、応急処置セットに裁縫セット、非常食セット、ドライシャンプー、ナイフ、雨具、軍手、ペットボトル、チョコレートに乾パン……。
「防災リュックかっ!!」
自分で自分にツッコミを入れた。