• テキストサイズ

【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 上から音がした。誰かが来ている!!
 私が慌てて柱の隅に隠れた瞬間、ハシゴから誰か降りてきた。
 降りてというか、落ちてきた。最後の力を振り絞って、ここまで来たという感じだった。

 月島さん!!

 ススだらけで全身真っ黒だが、間違い無く月島軍曹だ。手に奇妙なカバンを持ち、よろめきながら立ち上がる。

 同時に私は唇を噛む。

 私、やっぱり明治時代に戻ってきてたんだ。
 何で? どうして?
 だが今は何より隠れないと。

「梢……さん……?」

 月島軍曹はキョロキョロするが、視界が悪くて柱の陰にいる私を見つけられない。
 やがて月島さんはよろよろと外の方に歩き出した。
 私も距離を保ちながらコッソリ後をつける。

 歩くたび空気はどんどん清浄になり、月島さんも早足になる。
 そして――ついに光の中に出た。

「梢さん……梢!!」

 月島さんは私を探し大声を出したが、ハッとして口を押さえる。そして大切そうにカバンを抱え直した。
 いや私、すぐ後ろの木の陰にいるんだが。
『わっ!』と脅かしたくて仕方ないんだが。

 でも私は隠れていた。月島さんはポツリと、

「声を聞いた。光を見た。俺はまた……あの子に助けられたのか……」
 
『また』?
 助けたことなんかあったっけ?
 まあいいか。

「鶴見中尉殿の、元に……」

 まだ休んだ方がいいと思うのに、月島さんはふらふらと歩き出した。

 直後に「急げ急げ!」と炭鉱夫さんたちが木材かついで坑道に走って行くのが見えた。
 非情ではあるが坑道を塞ぎ、ガスの充満を抑えるらしい。
 もう少し遅かったらとゾッとし、同時に何故、月島さんが炭鉱にいたのか首をひねる。

「それはさておき」

 炭鉱を後にしながら呟く。

「どうやって帰ればいいの、この格好で」

 月島さんの前に姿を見せられなかった理由はそれだ。
 今の私は全身が、今の時代には発明されてない合成繊維の塊。
 リュックの中身の品々は言うに及ばず。

 何よりもスマホ。災害用の手回し充電器もそろっております。

「明治時代にスマホ持ち込んじゃった……」

 オーパーツ中のオーパーツ。
 これが鶴見中尉に見つかったら冗談じゃなく歴史が変わる。

「これからどうすればいいの」

 私は頭を抱えるしかなかった。
 
 ――END

/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp