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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 月島さんが助けを求めている気がした。
 だから私は暗い坑道を進んでいった。
 だが素人の探索はそう時間が経たずに行き詰まった。


「ゲホっ、ゴホッ」
 奥から吹いてくる風が、目に入るたび痛い。息が苦しい。
 もう汚れなんて気にしてられない。姿勢を低くし呼吸を抑え、壁をつたいながら進む。
 すでにこの坑道を覆う異常の察しはついた。

 ガス爆発が起こったのだ。
 
 月島さん……。

 気のせいではない……と思う。
 さっき月島さんの声を聞いた気がした。
 だがこんな距離が離れ、まして炭鉱事故の最中。冷静に考えればあり得ない。

 だけど私を返すことが出来たなら、引き寄せることも不可能ではないはずだ。助けを求められている。

「月島さ……ゲホッ、ゴホッ」

 梯子を登り、上層の坑道に顔を出した瞬間、凄まじい熱風に喉を焼かれるかと思った。
 慌てて顔を引っ込め、口を押さえた。ここまでが限界だ。
 このあたりにも、もうすぐガスが充満するだろう。
 今、上に行けば私の命が危ない。

 なら、どうやって月島さんを助ける?
 あんな状況では出口もろくに分からないだろう。こっちに来れば良いと教えられないか。
 でも大声を出そうと息を吸い込めば、一酸化炭素を胸一杯に吸い込むことになるかも。長居は出来ない。

 ――落ち着け……考えろ、梢。あんた、令和の人間だろ?

 私は考えた。考えに考えた。

 ――そして。

 …………

 …………

 あー、うるせえ!!
 私は片手で口と鼻を塞ぎ、もう片手でスマホをかざす。ガスのうずまく上の坑道に。
 
『出口はこっちでーす!! こっちから出られますよー!!』

 狭い坑道内に大音量の私の声が響きわたる。
 録音し、最大音量で再生した私の声だ。
 ついでに最大光度でスマホのライトもつけてる。

 ……熱と粉塵でスマホがダメになりませんように。二十一世紀の技術力に望みを託すしかない。
 私は何度も何度も何度も自分の声を流した。だが誰も逃げて来ない。

 熱風が勢いよく流れてきた。

「ぅ!」
 ガスを吸い込んだかもしれない。猛烈な嘔吐感に、私はハシゴを飛び下り、坑道の隅に走って全力でリバースする。
 そろそろ私自身が脱出しないとヤバイ。

 もう駄目なのだろうか……。

 そのとき、ハシゴの上から音がした。

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