【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
異臭が鼻をつく。肥料とか家畜の糞とか、そういう臭いではない。
「ガスの元栓閉め忘れた? 火の始末が不十分だった? けど臭いがおかしいし。これは――」
金属が焼けたような異臭。
「誰かが焚き火?」
古民家が全焼、なんてことになったら大変だ。
私はリュックを担ぎ臭いの元をたどった。
「こっちかな……庭の方には絶対に近寄らないようにしないと」
私は近くの林に分け入った。もちろん、近所で遭難するつもりもない。
何度か振り返り、ちゃんと古民家が見えるのを確認する。
臭いはどんどん強くなっていくようだが。
「どこから臭うんだろ」
方向を確認するため、一旦目を閉じた。
――いや、でもおかしくね?
これだけ開けた場所で、こんな強い臭いが拡散しないなんてありえない。
まるで獲物を誘い込む罠みたいだ。
やっぱり戻ろうかと思ったとき、足が、土でも草でも岩でもないものに触れた。
「ん?」
目を開けた。
「え?……ええ!? な、何ここ!?」
私は昼間の林の中にいたはずだ。
なのに、今、辺りは暗かった。
私は落ち着いてリュックを下ろし、手探りでスマホを出しライトをつけた。懐中電灯をつけたみたいに辺りが明るくなる。
「……?」
三つ留枠の木製支保工――洞窟内を支える木の柱が目に入る。
足下にはレール。マイ〇ラでこういうの見たなあ。ここは坑道というやつだ。
「あの家の近くに廃坑があるなんて、聞いたことないけど……とにかくすぐ出ないと」
連絡手段もなしに廃坑で迷うのは、確実な死を意味する。
だが幸い遠くに出口の光が見えた。
スマホで足下を照らしながら、出口に向かおうとし、
「?」
声が聞こえた気がした。
奥は真っ暗で、嫌な感じの生温い風が吹いてくる。
そしてスマホの明かりを当てて気がつく。
この坑道、柱に経年劣化がない、レールにも錆がほとんど無い。廃坑と言うには新しすぎるのだ。
「!!」
まただ。奥から人の声が聞こえた。気がした。
「この声……まさか……」
目も慣れてきたので、私はスマホを消しリュックにしまう。
代わりに布を出すと、口と鼻をしっかり覆った。
とても良くない感じがする。
けど、行かないと。
私は身を出来るだけ低くし、真っ暗な坑道の奥へ進んでいった。