【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
次はどんなお菓子を送ろうかと、ウキウキしながら歩いていると、学生服の数人組と通りすがった。
背後で声が聞こえた。
「あの子、どっかで見たことねえ?」
「どっかでって、どこだよ」
「ネットで……この前さあ、あったじゃん」
「ああ、あれか」
私の足が止まる。
全身の体温が下がり、呼吸が荒くなる。
息苦しくなり、今にも倒れるかと思った。
だが彼らは気づかず、
「こんなとこ居るわけないじゃん。あの事件ってあの後どうなったんだっけ?」
「さあ? クソ女とっ捕まえて死刑にしとけよなー」
その後のことは……ちょっと覚えてない。
古民家に戻り、机に向かい、胸に秘めた思いをただ書き殴った。
辛い、苦しい思いを吐き出さずにいられなかった。
私に何があったかって?
詳細を述べても仕方ないので、適当に想像してくれたまえ。
ただ一つだけ真実を述べるなら、私は冤罪なのだ。
私は書き殴った手紙を慰問袋に突っ込んで、縁側に置いた。
後は泣きじゃくって泣きじゃくって、そのまま寝てしまった。
……う、うん。目が覚めて真っ青になった。
今まで微妙なバランスによって成り立ってた『なりきりごっこ』を完膚なきまでに崩壊させてしまったんだから。
つか菓子も何も包まなかったのは初めてだ。
ガッカリされないだろうか。変な子と思われ文通は止めましょうと言われないだろうか。
……私が悪いと、怒られないだろうか。
慰問袋を見るのが正直怖かった。
開けて見ると、返事はいつものハガキではなく、封書だった。だからもっと怖かった。
でも、開かずにはいられなかった。
開いて、しまった。
『あなたを傷つけ、苦しめた者たちに憤りを禁じ得ません』
そこには少し揺れた字で、そう書かれていた。
私がいつもと全く違う字だとか、奇妙な仮名遣いで書いてるとか、そういうことには一切ツッコミを入れなかった。
最初から最後まで私に寄り添い、ひたすら慰めと励ましの文を書き綴っていた。
『陰で悪口を言う卑怯者の言うことなど無視して堂々となさい。
何もしていないあなたが怖じ気づく必要はないのだから』
ネット世論の怖さを知らないんだなあと思った。
でも涙が止まらなかった。