【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
スマホで相談しようかと思い、やっぱり止めた。
軍だの戦争だの。こういった話題は昨今、炎上しやすいのだ。
まして発信元が『私』とバレたら……。
「オバケと文通ってのもいいか。面白そうだし」
どうなってもいい。私を待ってる人も、気にかけてくれる人も、もう誰もいない。
私がこの古民家の悪霊だかに殺されて、ニュースに載ったら。
『あいつら』に一抹の罪悪感でも感じさせられることが出来るだろうか。暗い期待があった。
今思えばアホな思考だったが、私はその瞬間に、この奇妙な慰問袋に取り憑かれた。
この奇妙な現象と交信してやろうと思ったのだ。
気がつくと私は手紙を書き出した。
『はじめまして、勇作さん。私は梢と申します――』
こうして私は、日露戦争の戦場にいるという、花沢勇作少尉と交流を始めた。
…………
…………
もっとも最初は大変だった。『なりきる』ため旧仮名遣いをマスターしなければいけなかったし。
それでも上手く書くことが出来ず、最終的にパソコンに打った旧字体をプリントアウトした。
すると『あなたの端正な字に魅入られています』とベタ褒めされてしまった。
印刷と分からなくても、代筆とか思わないのかなあ。
戦場にいるのに、勇作さんは澄んだ水のように正直な人だった。
…………
慰問袋を通し、明治と令和を行き来する文通は続いた。
私は療養中のお嬢様を演じ、それっぽい日常を書いたりした。
勇作少尉も、故郷のことやご両親のことを書いてくれた。
そして過酷な戦況の中にあって、私の手紙がどれだけ嬉しいかを書き連ねてくれた。
最初は何か悪いことが起こるのでは、祟られるのではとビクビクしていた私も、すぐその気持ちを忘れた。
私を気にかけてくれる。私のしたことを喜んでもらえる。
必要としてくれている。
暗く沈んでいた気持ちが明るくなった。毎日が楽しくなった。
けどあるとき……次のお菓子を買いに町に出たときのことだった。