【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
■鯉登少尉
「あったか~」
さて。今日は休みなので、古民家でのんびり過ごす。
いつもなら縁側で客待ちなのだが、今日は寒さがきつかった。
まあ、この前行った北海道より遥かに温かいが、でも寒いものは寒いのだ。
そういうわけで、コタツを使っている。
といっても、普通のコタツではない。
「使えるかどうか不安だったけど、結構温かいですね、これ」
古民家に元々あった置きごたつを使ってる。
原理は簡単。土製の火鉢に布団をかける。それだけ。
熱源は電気ではなく炭火だから、火の始末に注意せねばならんし、中で寝るなんて自殺行為は出来ない。
だが温かい。
何でこんなことをしているのかといえば、最近、客が増えたからだ。
鶴見中尉とか(私が百年以上未来の人間と知らないにせよ)、現代テクノロジーに興味津々な輩は今後も増える可能性がある。
そのため、なるべく二十一世紀の物は排除した生活をしていた。
……むろん、生活の苦労は倍増しになった。
「おい。梢。いるのか?」
庭の方から誰かの声がしたが、私は背中を丸める。
――引っ越そうかなあ……。
あまりの生活の不便さにそう思うこともあるのだが、百年前からの客は未だに来る。
私がここを去って、タイムスリップ現象が終了するのかもハッキリしない。
これだけ難儀してるのにタイムパトロールも財団のエージェントも来ないまんま、今日に至る。
なので誰にも褒められもせず、私は明治の暮らしを再現すべく努力しているのだ。
「おい……いるのか、おい。返事をしろ」
縁側とここを隔てる障子の向こうから声がした。つか縁側に上がって障子を叩いてる。
でも私は綿入り半纏(はんてん)を着直した。
――ぬっくい。
温州ミカンうめえ。もう何もいらない。
私はスローライフを満喫し、ぬくぬくと眠りの世界に入ろうとした。
「おい、梢!!」
また障子を叩いてきた。うっさいなあ、もう。
「その声は音之進様でいらっしゃいますか?」
私はしおらしい声を出す。四個目のミカンを剥きながら。
「いるのか、梢!!」
障子の向こうの声がパッと明るくなった。
…………うん。