【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
私は勇作さんの『最後の』手紙を読む。
相変わらず達筆だ。
コネで検閲をすり抜けてるのか、割と突っ込んだことも書いてあった。
要約するとこんな感じである。
あなたの慰問袋が、なぜ私のところに届くのか、いつも不思議に思っている。
あなたの不思議なお話を聞くのはいつも楽しい。
あなたの包んだチョコレートがあまりに美味しく、配ろうとすると、皆、目の色を変え取り合いのケンカになってしまう――。
いや、そこは独り占めしとこうよ。
しかし製菓技術が昔と今はまるで違うのに、警戒心なくコンビニのチョコレートを包んでた。
今思うと冷や汗ものだ。
『慰問袋』とは戦地の兵隊さんに送るプレゼントみたいなものだ。
通常はお菓子や励ましの手紙、日用品などを包むらしい。
だが渡す相手の指定は出来ない。
兵隊さんには福袋的にランダムに配られるという。
手紙はこう締めくくられている。
『所望されていた写真も同封しました。出征前に兄と撮ったものです。
この戦争が終わったら、私は一目梢さんに会いたい。
お会い出来たらたくさんのお話をいたしましょう。
どうぞご両親に孝行を尽くし、療養にお努め下さい』
「…………」
そういえば、この奇妙な庭に気づいたのは、この『慰問袋』のせいだったっけか。
…………
…………
×ヶ月前のことだ。
この古民家に住み始めた私は、荷物を整理していた。
そして古民家に元々置いてあった古ダンスを開け、中に年代物の『慰問袋』を見つけた。
どうやら百年以上前の本物の品のようだった。
最初は『フリマアプリで売れるかな?』としか思わなかった。
でも、すぐに奇妙なものだと気づいた。
その慰問袋は、年数が経ってるはずなのに虫に食われてない。劣化が全く無い。
しかも何も無いタンスの中にそれだけがポツンと置いてあった。
不気味に思えた。
捨てれば良かったんだけど、私はそうしなかった。
持ってたチョコレートとクッキーを突っ込んで『梢より』と書かれた紙を同封し、両手を合わせてタンスに戻した。
い、いやあオカルトとか信じてないよ!?
信じてないけど、何というかほら、お供え感覚ってか!!
この古民家に棲む得体の知れないものを敵に回したくない、怒らせたくないと思ったのだ!!