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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 そのメールは、めまいを覚えるほど長かった。

 だが要約するとこうだ。

『我々は、ずっとあなたを探していた。
 あなたが助けを求めてくれるのをずっとずっと待っていた。
 重大な事情があり、今詳しいことは話せない。
 だが今のまま二つの世界を行き来することは非常に危険だ。
 次は戻ってこられるか分からない。
 だが恐らく事態は、あなた一人では止められない段階にまで進行しているだろう。
 どうかあなたの所在地を教えてほしい。私たちが必ずあなたを助けに行く』

「……電波と宗教と出逢い系の合わせ技かよ。期待させといて」

 危険なメールをさっさと消去した。
 ネットに接続出来るようになったら、まずメルアドを変えねばなあとベッドに横になり、天井を見上げた。

『次は戻ってこられるか分からない』

 ……そういえば保険は失効してたし、ネットも使えなくなってた。私の失踪に気づいた人はいなかった。

 逆にあの世界では、勝手に私の家族が出来て戸籍も戻りかけていた。

 まるで、私という『存在の重み』がこちらと向こうで真逆になったようだ。

「…………」

 私は窓から庭を見下ろした。ごくのどかな、普通の古民家の庭だ。
 だが今は、人を誘い込み、また迷わせる不気味な庭に思える。

「…………あのあたり、かな」

 夢の中で、埋められながら見ていた屋敷。
 あれは――この古民家だった。

 あのあたりを掘ったら、本当に人の骨が出てきたりして……。

 ガタッ!!

「うおわあああっ!!」

 ホラーな想像をしたせいか、物音に乙女らしい悲鳴を上げてしまう。
 うん。隣の部屋で音がしたのだ。
「だ、大丈夫大丈夫……猫とか入ってきたのかもだし」

 生まれたての子鹿のごとく、足をぶるぶるさせながら、隣の部屋を確認した。

「あ……」

 畳の上に、日の丸の書かれた木綿の袋が落ちていた。
 棚に置いといたのが落ちたのかな?

 古いその袋には『慰問袋』と書かれていた。
 ずいぶん久しぶりに取り出して中を見る。

「……勇作さん」

 中には古いハガキ。それと古い写真。

「やっぱ何度見ても嫌そうな顔だなあ、尾形さん」

 写真の中の花沢勇作少尉は、まっすぐな目をこちらに向け、誇らしげである。

 対して隣の尾形さんは明らかに写真に写るのを嫌がってる顔で、目もそらしていた。

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