【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
そして、しばらくの時間が経過した。
「……何かおかしい」
私はベッドに仰向けになり、天井を見上げる。
ガラスの窓からは昼の日がこぼれている。
とても静かだ。
合成繊維の洋服を身につけ、ふかふかベッドの上でゴロゴロしていた。
声? 腕? とっくに治ってますが何か?
声は家に置いてあった市販のお薬で、さっさと治った。
腕はさすがに医者に見せないワケにいかないから病院に行ったが、
『へえ何、これ石膏(せっこう)? まだこんな古いやり方してるところがあったんだ。海外旅行にでも行ってきたの?』
とお医者様にギプスを驚かれた。
ちなみになぜか保険が失効していて、自腹で払う羽目になり別の意味で痛い思いをしたが。
気分はタイムスリップしたお年寄りである。
道を歩いて車の多さに呆然としたり、コンビニの明るさと商品の多さに驚いたり、誰かがスマホで電話してるのを見て『あの人、何一人でぶつぶつ言ってんだ、怖ぇ』と首をかしげたり、顆粒の”だし”の素を見て『最近の若い者は楽ばかりして!』と勝手に憤ったり。
だが何よりの衝撃は――誰一人、私が失踪してたことに気づかなかった件だ。
マジで。警察が来た形跡が全く無い。
百年前だったら、私が数日いなくなっただけで大騒ぎなのになあ。
「ふう……」
ベッドで寝返りを打つ。まだちょっと痛むけど、折られた腕はもう普通に動かすことが出来た。
こちらは栄養事情も良く、鎮痛剤だってそろってる。驚くほどに治りも早かった。
「それに、町に出ても誰も私なんて、見もしなかったしなあ」
ネットの流行り廃りは激しい。炎上であっても同じ事だ。
「ネットの噂に自意識過剰になってたかなあ。
勇作さんの言うとおり、堂々としていれば良かった」
ゴロンと転がって、
「でも……誰も私に連絡をしてこない」
ネットで忘却されても、家族にとっては私は『恥』のままなのだろう。
私は寝返りを打った。
明治時代の皆は、元気かな。少しは私のことを思い出してくれてるだろうか。
時々、以前のように着物を着て縁側で待ってみることもある。
けど日暮れまで待っても誰も来ない。次の日も、その次の日も。
だからもう止めてしまった。