• テキストサイズ

【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 ここはどこ? お母さんは? でも身体を動かせない。
 わ! どこかに落とされた! 痛い! お母さん!!
 何なの、ここ? 周囲は土ばっかり――穴?
 
『おまえさえいなければ……あの人は、また来てくれる……きっとまた、私を……』
 
 女の人が見えた。

 彼女が私を、物みたいに地面の穴に放り投げたのだ。

 美しい人――だったのだろう、多分。

 やつれて髪は乱れ、でもどす黒いクマのある目だけ、らんらんと光っている。
 派手。彼女は芸者かと思うような派手な着物を着ていた。
 それが細くなった肩からずり落ちかけている。

 ここがお座敷では無く、真っ昼間の民家の庭と考えると、異様な風体だった。
 
 そして私の身体に土がかけられる。

 え? 待って! 待ってお母さん、私まだ生きてるよ!! 
 ……私、今『お母さん』って言った?

 だがその間も私に土はかかり、徐々に埋まっていく。ついに顔を残すだけとなった。

 私生きてるよ! お母さん!!

 泣けないほど弱ってるけど、死んでないよ!!
 お乳をもらえればまた元気になるよ!!

 死への恐怖が私を動かしたのか、ほんのわずかに、私の口から泣き声のような声が出た。

 お母さんがピタッと手を止めた。

 よ、良かった。お母さん、ここから出して。お腹すいた!!

 だが女は、私に土をかける作業を再開する。
 苦しい。口に土が入った!! 息が出来ない。お母さん!!

 ついに私は土の中に埋められた。

 遠くから声が聞こえた。もう少し歳の行った男女のようだった。

『いいんですか?』
『好きにさせてやれ。どのみち、この屋敷も手放すのだ。
 あれに赤子など育てられんし、子供がいては縁談も舞い込むまい』
『そうですね』
 
 冷たい。誰もが冷たかった。

 私は怖くて悲しくて、もう何も出来ず、暗く冷たい土の下で――。


『大丈夫だ』

 暖かい声が聞こえた。

「梢!!」

 ハッと目が覚めた。

 ……え? あれ?

「よしよし、怖い夢を見たな、梢。
 何も心配はいらないから安心なさい」

 あやすようにポンポンと背中を叩かれる。

 えーと……?

 私は鶴見中尉にすがり――泣きじゃくってた!?

 うおわあああああ!!

 大慌てで離れた。

/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp