【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
ゴザの隅に置いてあったのは、デカい瓶であった。
『純米大吟醸』
……。
そーっと手に取り、しげしげとラベルを眺める。
お酒かあ。
どっかのメガヒットアニメ映画ではないが、アルコールは昔から、異界と交信したり神様に近づいたりする手段と言われている。
ならお酒を通して、私をこの時代に送ったカムイ(推測)と対話出来ないものか。
ちょっとした思いつきだった。
私は栓を開け、『おちょこ』に酒を注ぐ。う、うわ、あふれる!
表面張力ギリギリで押さえ、ゆっくり口に――。
「こら! 梢~?」
うわあ! パシッとおちょこを取られた!!
鯉登少尉、私からうばった大吟醸をグイッと一気飲みすると。
「おなごが酒など飲むものでは無い!」
ちなみに今は未成年者飲酒喫煙法成立前だが……。
酒煙草をたしなむ女が、白眼視されてた時代なんだろうな。
いやちょっとくらい良いじゃ無いですか、ケチ。
片手を伸ばし、じたばたするわたくし。
鯉登少尉は手が届かないほど高いとこに酒瓶を上げ、
「止めんか! 丈夫な子供が産まれなくなるぞ!」
その発言、現代じゃ炎上案件だぞ……。
だが不興を買っても仕方ないので、私はすすっと正座に戻った。
すると鯉登少尉も満足そうに酒瓶を置く。何か腹立つ!
私はしゃくに触り、近くの湯飲みを一気飲みした。
――喉が焼ける。
すると近くにいた第七師団の人が慌てた顔で、
「あ! それ、俺の酒!!」
これ、もしかしてどぶろく?
このえげつないアルコール度数――!
「梢っ!!」
……私は昏倒したのであった。
…………
暗闇の中、どこかで聞いたような声が聞こえた。
男性の焦ったような声――どこかで聞いたような声だった。
『くそ……どうしても送信元がたどれない。切り離されかけてるのか』
『このままだと完全にあちらに定着するぞ』
『そんなことになったら、あの子はまた――』
その声はすぐ聞こえなくなった。
続いて目の前に広がったのは、どこかで見たような屋敷だった。
泣きたかった。私はムチャクチャ泣きたかった。
お腹がすいた。身体も気持ち悪い。寒い。とても寒い。
でも出来ない。泣けないほど、体力が奪われていた。
夢の中で、私は赤ん坊になっていた。