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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 そんなこんなで、私は江渡貝邸で療養の日々を送った。
 その後、リハビリのかいもあり、どうにか歩けるようになり、片手の機能も回復した。

 そして今。

 んー……。

 私の視線の先――中華鍋の中で、衣をまとったカツが泳いでおる。
 私は片手ギプス、もう片手に菜箸を構えている。
 油の中の、カツを引き上げる隙を見定めているのだ。
 
 お金って素敵。毎食白米に出来るし、百年後の料理を(限定的ではあるが)再現出来るんだもの。

 江渡貝は元々、天才剥製師である上、鶴見中尉から多額の前金をもらってるらしい。
 おかげで料理にあたって、潤沢に金を使うことが出来た。

 うおわっ!! あ、あぶねえ!
 ハシを滑らして、カツを油の中にドボンするところだった!
 はー、はー、と真っ青な顔でカツを皿の上に避難させていると。
 
「大丈夫ですか? 何か手伝うことは」「そんな無理して作らなくとも」「うちを火事にしたら剥製にするよ?」

 男どもやかましい!

 殿方三人、厨房を占領する私に興味津々だった。

「とてもそうは見えないけど、あの子、本当にいいとこのお嬢さんなんだ。ガスレンジが使えるなんて」
 余計なことを言いつつ、珍しく感心した風の江渡貝。
「梢さんは華族の血を引いているからな」
 なぜあんたが偉そうに言う、月島軍曹。違うって知ってるでしょが。
 それに、ここまで使えるようになるまで死ぬほど大変だったんだから。

 江渡貝邸には、何とガス調理器があったのだ。
 もちろん現代のガスレンジとは全く勝手が違うが、一から火をおこすかまどに比べれば、遥かに楽。
 色んな料理に挑戦することが出来た。
「梢さんが元気になってから、ご飯が楽しみで楽しみで」
 楽しそうっすね、前山さん。
 うおわあ!! ま、また油がはねた!! くっそ。ギプスが邪魔!!

「でも片手が使えないのに、何であんな危険な料理をしてるんだろう、あの子」
 江渡貝のくせに、ツッコミをしてきた!

 …………

 そして本日の梢さんメシが出来上がった。

『――!!』

 男性三人。無言で、だが猛スピードで食い出した。
 そしてほぼ同時に食べ終わり、器をドンとテーブルに置く。

「美味い」「ごちそうさまです」「うん」

 私を褒めたら負ける病にでもかかってんのか、変態剥製屋!

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