【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
だが男性陣の満足そうな顔。何よりも米粒一つ残さず、空になった器が評価の証である。
作ったのはカツ丼だった。
明治期は、和洋折衷の色々な料理が開花した時代だ。
なので私も記憶を頼りに、隠れ家時代からちょくちょく現代料理に挑戦していたのだ。
……だがまあ、失敗を数えたらキリがない。
火加減を誤って隠れ家を全焼させかけ、土方さんと永倉さんから呼び出し食らったことも三回ほど――コホン。
ちなみに牛山さんだけは、どんな悲惨な失敗をしようが笑って食ってくれたものだ。平常時は意外と紳士なのである。
なお初カツ丼披露時には至福の顔で三人分食って、皆の前で『一生おまえのメシが食いたい!!』と大声で言ってきた。
……その後クソ山猫の機嫌がまた最悪だった。眉根をよせ、終始無言のままつきまとわれた。
あんた『ふーん』みたいな顔で平然と聞き流してただろうが!!
尾形さん、元気かな。
もう私を忘れた頃だろうか。危険なことをしてないといいけど。いやしてる。絶対にしてる。
下手すると、もう他界してたりして……。
「梢さん?」
うわっ!! 横から月島軍曹に話しかけられた!!
そうだ。食事が終わって、洗い物をしてるんだった。ここ、水道も通ってるし。
時代が時代なので、殿方の手伝いなど最初から期待してなかった。
だが私が片手を使えないからか加害の負い目からか、月島軍曹は割と家事を手伝ってくれた。
「まだ完全に回復していないのですから、そう、気を張らずに」
腕まくりし、水を張ったタライに食器をつける月島軍曹。
ちなみに軍服で軍帽着用。
……何かシュールだ。
そのまま、無言で二人して皿を洗う。あー、水道があるっていいなあ。やっぱ文明最高!!
とか思っていると月島軍曹が、
「……声は、まだ出せないのですか?」
私は頷く。江渡貝の使った薬品により、私は一時的に声が出せない状態になっている。
飲み込みに痛みはなくなったから、別の場所が傷ついてるのかもしれない。
時々水飴はなめてるけど、ほとんど気休めだった。
窓からは暖かくなった風が吹き込む。
最初にこの時代に来たときは真冬だったのに、いつの間にか季節が変わってしまった。
あ。桜の花びら。
北の大地にも、桜の季節が到来していた。