【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
……こうなったら懐に飛び込むのもありなんだろうか。
どんだけ期待されても、ポンコツはポンコツなんだ。ちょっと使ってみればすぐ分かるはずだ。
期待を裏切るのは申し訳ないが、すみませんでしたー!って正門から出て行くのが、一番安全で後腐れがないだろう。
いやいやいや! 普通に家に帰るのが一番だから!
安全な令和に帰ったらすぐ引っ越しするから!
などと呑気に逃げる算段をしていると、月島軍曹が陰鬱な顔で続けた。
「旭川には鯉登少尉がいます。旭川にあなたが来ると聞き、大変お喜びでした。
梢さんの到着を心待ちにし、毎日電話で容態を聞いてこられます」
色々ありすぎて完全に忘れてた。ごめんなさい、鯉登少尉。
……この時代の電話って、五分で日給相当の電話代がかかるんでしょ?
少しは控えようよう。
ちなみに今回の件は、もちろんすぐ鶴見中尉へ報告された。
月島軍曹は職務に従って行動しただけなのだが、大変な叱責を受けたらしい。
私にはかなり早い段階で、鶴見中尉から丁寧な謝罪の書簡が送られてきた。
……といっても情報漏洩防止のため、何重かに暗号化されたものを月島軍曹が解析し、私に口頭で伝達。
自分がしでかした暴行事件の謝罪を、自分が読み上げさせられるという罰ゲーム。見ている私も胃が痛かった。
簡潔に述べると、まず月島軍曹のしでかした失態への謝罪に次ぐ謝罪。
私の容態を気遣う言葉。
勇敢に窃盗犯に立ち向かい、貴重な品(イレズミニンピのことらしい)を取り戻してくれたことへの礼。
それに対する江渡貝の傷害罪を、本人に代わり謝罪。
そして暗闇の状況下で果敢に行動し、生存につなげた行動力への賞賛。
いや月島軍曹が弾切れだっただけだから。
他にも私の近況を憂い、できる限り力になりたいとか。
しばらくは月島軍曹が責任を持って看病するとか。
つまりは謝罪の体裁を取った、示談の押しつけである。
その証拠に、月島軍曹は口頭での厳重注意で終わりっぽいし。
どう取り繕おうが、今回の件は第七師団にとって不祥事だ。
その詫び代と口止めのための、今後の保障なんだろう。
また贖罪(しょくざい)と称して月島軍曹に私の世話をさせてるが。
加害者に被害者の世話をさせるのは、恐怖による監視と何ら変わりはないのである。