【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
……。
眠りから目覚めると、部屋に人の気配がした。
江渡貝か!? また私を始末しようとしに来たのか!?
ガバッと起き上がろうとし……全身の激痛に悶えた。
声も出せずに痛みにうめいていると、
「梢さん。無理に身体を動かさないで下さい。
深呼吸をして力を抜いて」
うおわ! 月島軍曹が間近にいた。てか、床に布団敷いて寝てたっぽい。
彼は気まずそうに私の涙を拭き、
「……江渡貝が寝たので護衛は前山に任せ、雑事を済ませてきました。
それでも時間が空いたので、ここで休息をと。
こういったケガは、いつ容態が変わるか分かりませんし」
私の背中をさすりながら、不吉なことを言う。
アーティスト江渡貝は繊細である。深夜に鶴見中尉へのラブコールを連呼したかと思えば、真っ昼間に爆睡。
振り回される常識人の皆さんは一苦労だ。
月島軍曹は私を寝かせ、布団をかける。
「鶴見中尉への定時連絡も行いました。
中尉殿は梢さんの容態を非常に案じておられました」
まだ心配してるんだ。
ちなみに色々な偶然と思い込みが重なった結果、皆の中で梢という少女の正体は、
『某華族の富豪の妾(めかけ)の子。死産とされていたが実は生きていて、父親が密かに北海道で生活させていた』
……という、小説張りのややこしいことになっている。
だがDNA鑑定もない時代だ。富豪は投資に失敗して自死、お妾さんもとうに死去。
そして残りの家族も家が没落したため、すでに離散して行方知らずらしい。
つまり皆の思い込みを修正する方法がないのである。
逆に言えば私も一文無しになった、と思われてるはずなのに。そんなに気に入られたのかなあ。
「それと」
月島軍曹の顔は暗い。というか再会してから笑顔を見たことがない。
「あなたの身柄は、間も無く旭川に送られます」
……囚人の移送じゃないんだからさあ。
「あちらは第七師団本部があり、最新の医療設備が整っています。
通常なら女性が入る場所ではありませんが、鶴見中尉が特例として許可するように根回しをしているそうです」
当人の許可無しに話を進めるなや。
ケガで意思表示もままならないのを悪用し、鶴見中尉に都合の良いように、事態を動かされてる気がしてならない。