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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



「梢さん、部屋に戻りましょうか」

 月島軍曹が私を慎重に立たせ、身体を支えながら歩かせる。
 私はギシギシと床を踏みながら、ゆっくり足を動かす。

 足のケガは、腕や手より先に回復した。
 けどまだまだ動かすと痛いので、本音は動かしたくない。

 しかし戦場帰りの月島軍曹は、リハビリの大切さを経験的に知っているらしい。
 手間がかかろうと私が嫌がろうと、私に食事場所と寝室を往復させ、足を使わせていた。



 どうにか寝室に行くと、私を寝かせて清潔な布団をかけてくれる。

「それでは梢さん、後でまた来ます」

 頭を下げ、月島軍曹は部屋を出て行く。鍵がかかる音。
 私は枕に頭を乗せ、ふーっとため息。

 ……触られている間ずっと、ガタガタ震えているのは気づかれたな。

 これは月島軍曹への感情云々ではなく、本能的なものだ。
 自分を殺しかけた相手に、自分の身体をゆだねているのだし。

 実際、私が今生存出来ているのはほぼ『運』だ。
 あのとき銃に弾が装填されていたら、私は今ここに居ない。

 家に帰らないと。

 そう思うのに、じりじりと時間だけが過ぎていく。

 というか暇だっ!! スマホもテレビも、ラジオすら無いんだもの。

 手が動かせないから本も読めない、部屋の窓は板で塞がれてるから景色も楽しめない、ドアにだって鍵が――。


 ……どう見ても監禁です。ていうか監禁です。


 私が見た『イレズミニンピ』は相当ヤバいものらしい。
 月島軍曹たちも、かなりの極秘任務で動いているようだ。
 むろん黒幕はいつもの鶴見中尉であろう。

 私を入院させないのも私を気遣ってのものではなく、情報漏洩(ろうえい)防止が目的なんだろう。
 
 私はこの時代にさよなら出来ればそれでいいし、秘密を外部に漏らすなんてしないんだけどなあ……。
 
 枕に頭をつけ目を閉じる。振り子時計が陰鬱に時を刻む音がする。

 眠れない。眠れるわけがない。
 私の頭にはさまざまなコトがよぎる。

 イレズミニンピ。この屋敷で行われていること。
 鶴見中尉。彼に敵対してる土方さんたち。
 一体、どんな陰謀が蠢いているのだろうか。
 
 ……。

 …………。

 カケラも興味ねえわ!


 私は五秒で眠りについた。


 ちなみにアイヌの金塊のことは完全に忘れてた。


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