【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
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往診に来たお医者様は、たいそうお怒りであった。
「ひどい……ひどすぎる。こんなにひどい女性患者さんは見たことがないよ!
いったいどこのゴロツキが、こんな可愛いお嬢さんにここまでむごい真似が出来るんだ!
え? 強盗!? 金目当てだって、ここまでする必要があるのかい!?」
薬品による喉のケガ。片腕はバキバキに折られ、もう片手も全力で踏まれて動かせない。
腹を殴られ足を蹴られ顔も殴られ、ついでにあちこちの台にすごい勢いで激突。すり傷打撲その他数知れず。
私もここまでするか?と思う。
いわく真っ暗な上に薬品類が多かったので、無力化と沈静化を優先した結果の行動だそうな。
『こんだけボロボロにすれば剥製にも使えまい』というズレた気遣いもあった模様。何の慰めにもならんが。
お医者様は熱い人なのか、眼鏡を外して涙をぬぐい、
「きっと犯人は生まれついての凶悪殺人犯なんだろうね。
そんなクズの極悪人は百回くらい死ねばいいんだ!」
そっすね。
「お嬢さん、これだけやられて生き延びただけでも、あんた十分すごいよ!
兵隊さん! 罪も無い娘をここまで痛めつけた、人の皮を被った畜生を必ずとっ捕まえて縛り首にしてくれよ!!」
それを聞いている月島軍曹の顔は、残念ながらよく見えなかった。
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意識が回復しても、私はほとんど動けず江渡貝邸にいた。
だが、そもそもの元凶からは謝罪の言葉一つ無く、
「えー、第七師団の知り合いの人なら、最初からそう言えばいいのに!
あーあ、せっかく女の人の死体が手に入ると思ったのに残念だなあ!!」
江渡貝!! てめえ殺す!! 後で絶対に殺すからなっ!!
だが、今の私は頷くことすら構わず、とっとと部屋を出て行く男を睨むしかなかった。
なお江渡貝と対照的なのが。
「梢さん…………このたびは、誠に……」
私の寝台の真横で土下座し続けている人がいた。
そだね。私も最後の頼みの綱の人に、ここまでの重傷負わされると思ってもいなかったっすよ。
「月島軍曹、ずっと土下座されてても困るんじゃないですか?
それに江渡貝君の護衛に戻らないと……」
部下の前山さんも、困ったお顔だった。
私も困ってる。意思表示をしたくとも、声も出せない手も動かせないのだから。