【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
そして、しばしの時間が経過する。
…………
その朝。小洒落(こじゃれ)た江渡貝邸は今日も不穏であった。
「…………臭い」
朝食の目玉焼きにフォークを突き刺し、芸術家肌の家主――江渡貝はギリリと歯を食いしばる。
その視線の先にはすぐ隣のテーブル、私がいた。
「梢さん、口を開けて下さい」
と月島軍曹。あーん。
固形物が上手く飲み込めないので、食事はやわらかいもの中心だ。
シンプルな砂糖入りの寒天はするっと喉を通り、美味かった。
ずっと寝て、多少回復してきた。だが未だに私は両手を使えず、歩くのも難しい状態だ。生活に何かと助けがいる。
でも『これ以上、他人が家に入るのは耐えきれない!』という江渡貝の強烈な主張により、人員補充はなされなかった。
で、月島軍曹が江渡貝の護衛兼、私の看病をするというブラック勤務になっていた。
しかしその苦労を一切顔に出すことなく黙々と仕事にあたっている。明治の軍人さん、パねえ。
しかしそんだけ月島軍曹が気を遣っても、江渡貝は江渡貝。クソワガママ……コホン。孤高のアーティストであった。
「月島さん! 何でその女を僕の部屋に入れてるの! とっとと追い出して下さいよ!!」
ついに爆発した。怒りのあまり、フォークを持つ手がぶるぶる震えている。
「江渡貝くん、我慢しなよ。梢さんはケガ人なんだし、君の護衛も同時にしなきゃいけないんだから」
と、窓から外を警戒してる前山さん。
江渡貝がうるさいのはいつものことなので、月島軍曹は無言で私に食事を取らせている。
でも顔が怖い。毒でも混ぜられてる気になるんだけど。
「食事を食べられないくらいのケガなら、入院させればいいでしょう!?」
なおもごねる江渡貝。
「……外に預けることはせず、ここで療養に当たっていただくと言うのが鶴見中尉殿のご意向です。
そして私も、今回の件に重責を負う者として梢さんの看病にあたりたい」
ボソリと呟く月島軍曹。そんなに気にしなくていいのに。
「鶴見さんが!?」
江渡貝の目が見開き――さっきより顔を赤くしてわなわな震える。
その様子は、嫉妬に狂う女そのものであった。