【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
月島さんは説得を止めたようだ。まっすぐこちらに近づいてくる。
しかし彼は江渡貝の言葉を聞いても、江渡貝を捕まえる気配はない。
どういうことだ?
いや頭の悪い私にはさっぱり分からん。
でも多分、鶴見中尉絡みなんだろう。
不法行為を見逃す代わりに、江渡貝に何かをさせている?
それに『刺青人皮』って、どっかで聞いたことがあるような……。
「!!」
靴音が近い。ボーッと考え事をしてる場合じゃ無い。
『私が月島さんに顔を見せれば終わる☆』というだけのアホらしい話なのに、顔を出そうとすれば撃たれる状態だ。
どうする? 江渡貝の薬品で喉が焼けるように痛み、声を出せない。
部屋の出口は一つだけ。
持っているのは中身が半分になった唐辛子スプレー一個きりだ。
ううう。喉が痛くて考えがまとまらない。水、氷が入った水が飲みたい。
一刻も早く、月島さんに、部屋にいるのが私だと認識してもらわないと。
ちょっと頭を上げて私の姿を見せれば――。
「!!」
あかん。また頭上を銃弾がかすめた。ダメだ、危険だ。
耳がキーンとする。
月島さんは私が丸腰と舐めてかからず、慎重に近づいてくるようだ。
そしてついに、私が隠れている台の反対側まで来た。
それ以上は近づいてこない。どうやら、台を挟んでこちらを撃つつもりらしい。
万が一、私がナイフなり、武器を隠し持っていたときのための警戒か?
月島さんは言う。
「恨むなと言う方が無理だろう。だが君が逃げられる可能性は万に一つもない。
一瞬で終わらせるから、大人しくしていてくれ」
これから人殺しをしようとしていると思えないほど、静かな声だった。
いや大人しくなんて出来るか!!
こうなったら!!
「!?」
台の下の薬棚には、アルコールだの、エタノールだのの瓶がたくさんある。
私はそれをつかむと、思い切り投げまくった。
全部ガラス瓶なのでガチャンガチャン割れまくる。
これで逃げてくれないかと、淡い期待をする。
「そうか。剥製に使われる劇薬もあったな」
超冷静な声で、パシッと瓶を受け止める音。
そして入り口の方に駆け出す音がした。
や、やった! このまま引いてくれれば――。
――!?
視界が暗闇に閉ざされる。
部屋の扉が閉められた!