【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
すぐに立って姿を晒したかったが、耐えがたい喉の痛みで不可能だった。私は薄暗闇の中を、這って水を探していた。
すると物置部屋の台の下に、薬品を置く棚が設置されていて薬瓶が並んでいた。
江渡貝の言った通り、どれも無害な消毒液ばかり。
水は――あった! 蒸留水!!
私は瓶を開け、ゴクゴクと一気飲みした、だが少量だ。
火傷にちょっと水をかけた程度の効果しかなかった。
だが水分を取って、多少落ち着いた。
……そうだ。月島さんに私だって教えないと。
だが無機質な軍靴の音は、物置部屋の入り口まで来ていた。
靴音が止まる。
窓の無い部屋の入り口に、月島さんが立つ。
私は台の陰から頭を出そうとして、それを止めた。
なぜか『今』、頭を出してはいけない気がしたのだ。
月島さんの声がする。
「怖がらなくて良い。見たものを口外しないと誓ってくれるのなら、安全に解放する。出てきてくれ」
うん。もちろん。月島さんの言うことなら安心だ。
立ち上がり、出て行けばいい。
…………本当に?
私は対応を決めかねた。
鶴見中尉は私を確保しようとしていた。
また捕まるのでは?
いや、でも私の父親(と皆が勝手に思ってる赤の他人のオッサン)の訃報はとうに知られているだろう。
私の資産価値は消えたのだ。
能力にしたって『小娘にしては』というレベル。投資価値は常に変動する。
何ごともなく解放され、未来に戻れる可能性は十分にある。
「俺は帝国陸軍の軍人だ。心配はいらない」
穏やかに語る月島さんも、以前の月島さんのようだった。
…………大丈夫。きっと大丈夫だ。
私は今晩には、やわらかいベッドの上でスマホをいじる生活に戻っているはず。
ゆっくりと物陰から頭を出そうとして。
「月島さーん!! なるべく傷はつけないで下さい!!」
遠くの部屋から江渡貝の声がした。
「若い女性の死体はめったに手に入らないから!!
きれいな人だったし完璧な全身剥製を作ってみたいんです!!」
おいいい!!
バッと頭を引っ込めた直後、頭上を銃弾が通過した。
「江渡貝!! 余計なことを言うなっ!!」
きれいな人ってとこ以外はな。
てか月島さん、最初から銃を構えてたのか。
私が頭を出したらその場で射殺する気だったのかよ!!