【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
甘い言葉に乗って男性の家に行き、思ったより大変なことになった。
「お茶だけでも飲んでみて下さい。自信作なんですよ!」
江渡貝は冷や汗を流しながら、不自然に飲食を勧めてくる。
ちなみに案内されている最中に気づいたが、この家の入り口は入ってきた一つだけ。全ての窓には鉄格子。
そして今、私たちがいる客間では、江渡貝が入り口側のドアを背に座っている。
つまり唯一の逃げ道をふさがれた形だ。
ちなみに私の後ろにもドアはあるが、外に通じてないことは確かだろう。
「……どうしたんですか? 梢さん」
江渡貝は思ったより神経質らしい。
どう勧めようが、茶と菓子がそのままなので、動揺し出したっぽい。
顔が真っ青、身体はぶるぶる震え出し、今にも奇声を上げそうだ。
私も何でこんなのについてきたんだろう。
いやだって金回りが良さそうだったので、何かしら盗――ゴホンゴホンゴホンっ!!その、商売の話とか無いかなあと思ったのだ! うん!!
「そ、そうだ梢さん。もっと奥の部屋も見ませんか?」
流れが変わってきた。どう切り抜ける?
そのとき。
「あ、猫ちゃん!」
ふじでこ柄の変な猫ちゃんが来た。私はパッと顔を輝かせる。
「可愛い可愛い! ここで飼われてるんですか?」
「あ、いえ、ここらをうろついてる奴で……それよりお茶を――」
「よーしよし。お菓子食べるのかな?――あっ!」
お菓子を取るふりをして、私はお茶と菓子を皿ごと床に叩き落とした!
派手な音を立てて皿が割れ、お茶が飛び散る。猫ちゃんは驚いて逃げてった。ごめんね。
「す、すみません、江渡貝さんすみませんっ!!」
大慌てで謝るフリをした。江渡貝は優しく笑って、
「いいんですよ。拭く物と代わりのお茶を持って来ますね」
と、出て行った。
……よし。
今のうちに逃げられないだろうか。私は急いで立ち上がり、背後の扉を開ける。
「……行き止まり、か」
物置みたいな部屋だった。窓一つない息苦しい部屋があるだけだった。いくつかの台があり、上に剥製標本が乗ってたり乗ってなかったり。
逃げ場か武器がないかと期待したのに。
「梢さん。どうしたんですか?」
入り口を見ると、江渡貝が立っていた。
手袋をし、片手にデカい肉切り包丁を持っていた。