【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
冷静さを崩した方が負けだ。私は努めてクールに、
「……申し訳ありませんが、もう帰ります」
私はサッと台を見た。台の下に薬品を置く棚もあったからだ。
だが江渡貝は一歩、包丁を持ってこちらに近づき、
「そこは無害な薬品しか置いてないよ。単なる物置だから。残念だったね」
私は舌打ちした。
「旅人を連れ込んで殺して、剥製標本を作るのがご趣味なんですか? よく今まで捕まらなかったものですね」
「……! 僕は人殺しなんかしない!! に、人間で剥製なんて、そんな恐ろしいこと……」
私はビシッと指をつきつけ、
「なら、さっきのカバンの中にあったものは何なんですか? あれ、本物の人の皮でしょ?」
江渡貝のカバンの中には、奇妙な文様の『皮』が入っていた。
……あれは間違いなく成人男性の皮だ。TKBあったし。
言葉の効果は予想以上だった。
「梢さん……やっぱり、見たんだ。ああ、どうしよう!! バレたらあの人に怒られちゃう……!!」
江渡貝の顔が真っ青になりぶるぶる震える。カマかけに盛大に引っかかってやんの。
それと『あの人』って誰やねん。
「あれはあなたの作品ですか?」
「違う。あれは僕の作品じゃ――いや、これ以上は言えない! とにかく、見られたからには――!!」
彼が包丁を構えた。
「話が長ぇわっ!!」
私は走り出していた。
「この!!」
江渡貝が殺意を持って包丁を突き出した。あ、危な! 顔の横を包丁がかすめた!!
だが危険を冒したおかげで間合いには入れた。
私は懐から取りだした唐辛子スプレーを、江渡貝の顔面に吹き付けた。
「ぎゃあああっ!!」
物置部屋に響き渡る悲鳴! 江渡貝は目を押さえ、絶叫しまくる。
……だが効果がありすぎた。
彼は包丁を振り回しながらメチャクチャに暴れている。
外に出たいのに、これではすり抜ける時にざっくり刺されてしまう。
「……そこ、かっ!!」
油断した! 江渡貝が襲いかかってきた!!
とっさに包丁はどうにかかわした――と思ったら、彼の逆の手が私の口に入った!
うわ! 汚なっ!! 大慌てで手をはらう。
汚いな。手袋してるとはいえ……変な味が……。
私はゴクンと、反射で喉を上下させた。
――――!!
次の瞬間、喉に焼け付くような激痛が走った。