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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 私は返答に迷って空を仰ぎ、

「んん……私、ちょっと事情があって一人旅をしてるんで」
「女性が一人旅!?」
「ええ。ですので多少護身術の心得があって」

 ウソではない。尾形上等兵殿にちょこっと教わったし、インカラマッさんにも少し仕込んでいただいた。

「そうなんですか。良ければお礼をしたいので、僕の家にいらして下さい!」

 とても、とても爽やかな笑顔だった。

「いえお構いなく――」

 立ち去ろうとしたら、ガシッと肩をつかまれた。

「ご遠慮なさらず!! 旅でお疲れでしょう!! ぜひ! いらして下さい!!」

 肩に食い込む指が痛い。
 私はお兄さんを見上げた。
 あんみつ食べたばっかなんだけどなあ。

「……じゃあ、お邪魔しようかな」
「本当ですか!?」

 お兄さんはパッと顔を明るくした。
 そして私から手を離し、カバンをぎゅううっと抱いて、軽快に歩き出した。
「こっちです。町外れですが、すぐですから!」

「あの。私は梢と申します。あなたのお名前は?」

 すると青年は笑顔を浮かべ、こう言った。

「江渡貝弥作(えどがい やさく)です!」

 …………

 …………

 こうして、私は江渡貝さんのご自宅に招かれた。
 どのみち人捜しでつまづいてて、予定が無かったってのもあるが。
 
「梢さん、遠慮せずどうぞ!」

 客間で、江渡貝さんは美味しそうなお茶と茶菓子を出してくれた。

「剥製屋さんだなんて、珍しいご職業ですね。どの作品もお見事でした」

 そう。江渡貝さんは剥製職人だった。工房で色んな剥製を見せてもらい、その出来映えには感嘆するしかなかった。

「梢さんも、若い女性の方が一人旅だなんてすごいですよ。ご家族の方は心配してらっしゃらないんですか?
 さ、お茶菓子をどうぞ」

「実は私、身寄りがないんです。知り合いを頼って夕張まで来たんですが、見つからなくて」

「……すみません。重ね重ね失礼な質問をしてしまい。
 あ、召し上がって下さい」
「どうも」
 私は手をつけない。江渡貝さんはニコニコと、
「あのカバンには、剥製制作に関する大事な資料が入っていたんです。
 取り戻していただき本当に助かりました。
 どうか召し上がって下さい」
 
「はあ」

 さて。茶と茶菓子を、なぜそこまで執拗に勧めるのかな?

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