【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
「こちらに来るなら、せめて私に一言連絡して下さい!
いくら西洋人が多いとはいえ、その男装は目立ちすぎる! もし私がこっちに来ていなければ今頃どうなっていたか――」
ガミガミガミ。
いや連絡しろ言われても。あと男装じゃないもん。
けど月島さんは怒るのを止め、肩を落とした。
「すみません。少々、取り乱しました」
「いえ、私こそ月島さんに迷惑をかけちゃって。あの中尉さんをごまかしきれるんですか?」
「……あのままでは、貴女は中尉に何をされたか分からない。
あの方は目的のためには手段を選ばない。婦女子相手でも同じことです」
「…………」
「私のことはご心配なく。どうにかします」
月島さんが私の手を取った。
気がつくと日は沈み始めている。
でも月島さんが歩くから、私もついていくしかない。
「…………安心しました」
月島さんがポツリと言う。
「え?」
「今までは半信半疑だったのです。あの屋敷の存在も、貴女のことも。
ですがこうして、あの屋敷は間違いなく実在していて、貴女自身もこの世の存在であることが分かった。
そして私自身が正気であることも、ね」
最後は月島さんに似合わず冗談めかした言い方だった。
機嫌が悪いように見えて、実は逆だったのかもしれない。
「月島さん。私にも、あの屋敷が何なのかは分からないんです」
そういえば、あの古民家、地元では『人食い屋敷』って言われてたっけ。
住む人間が十年に一度くらい神隠しに遭う~みたいな話があって。
つまりタイムスリップ現象の発生地? SCPオブジェクト!? 財団に報告しなくっちゃ☆
「森羅万象、全てのことが人間の思うままになるわけではないでしょう。
そんなことより、私は梢さんが間違いなく存在すると分かって……嬉しかった」
「は?」
ヤバい! 思考に集中してて聞きそびれた!!
「月島さん、今何て?」
「いいいいい、いえ! 何も!」
顔を真っ赤にし、大慌てで軍帽を被り直す月島軍曹。
いやボソッと何か言っただろが。
まあ助けてもらって追及するのも失礼か。ここは大人になりましょう。
「それより、まっすぐ進んでますが、どこに行くんです?」
「もちろん、あなたのお屋敷ですよ」
月島さんは私の手を握り直しながらキッパリと言った。