【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
すると鶴見中尉はニッコリ笑った。
「そうかそうか。ご自宅が見つかり、何よりの僥倖(ぎょうこう)。では私が自宅にお連れして取引を――」
やばいやばい! ついてくるつもりだ!!
けど月島さんはすかさず、
「鶴見中尉。”例の件”について、お耳に入れたいことがございます」
『例の件』?
「何?」
でも効果はあった。よほど大事な案件だったようだ。
鶴見中尉と月島さんは、部屋の隅でしばらくヒソヒソ話していた。
そして数分後。鶴見中尉は私に、
「誠に残念ですが、早急に向かわねばならない用事が出来ました。
ですが、あなたは私の部下が安全にお送りしますのでご安心を」
「ありがとうございました」
「梢さん! どうぞ! お父君に! よろしくお伝え下さい!!」
「は、はあ。必ず……」
ああもう。ここがファンタジーとか異世界だったら、遠慮せず合成繊維の衣類を輸出しまくって億万長者になれたのになあ。
ちょっとだけ残念な私であった。
鶴見中尉が立ち去っても、見張りの兵士さんがいる。そのためか月島さんは事務的だった。
「表に馬車を止めてあります。こちらへ」
彼は極めて丁重に、私を外に連れて行った。
…………
そして街から離れた場所で、月島さんは馬車を止めた。
「ここから先は歩きで行く。戻っていい」
そう言って馬車を返し、私は月島さんの後をついて、山の中に入った。
雪深い山道を、月島さんは慣れた感じで進んでいく。
「私の靴痕の上を踏んで来て下さい。何かあれば、私の指示に従うよう」
「ありがとうございます……」
というか、どこに行くつもりなんだろう。
でも何歩も歩かないうちに。
「全く……とんでもないことをする人だ」
月島さんが、ボソッと呟いた。
「あ、あははは。すみません。ご迷惑を――」
「全くです! 山で奇妙な服装をした少女が保護されたという!
容姿を聞き、私には貴女であるとすぐに分かりました!
しかも鶴見中尉が直々に尋問されているという!
心臓が口から飛び出るかと思いましたよ!」
珍しく感情をあらわに、月島さんは怒鳴ったのであった。