【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
どうやら引ったくりらしい。でも犯人がアウトローな外見のためか、皆動けない。
そして犯人が先に動いた。私を睨みつけ、
「クソガキ!! 殺すぞ!!」
「っ!!」
自分からぶつかっといて、謝りもせず暴言かよ!
私は懐から『アレ』を取り出し――逃げようとする泥棒の顔面に吹きかけた。
「ぎゃああああっ!!」
凄まじい悲鳴が響いた。
ふ。一味唐辛子を濃縮し、さらに殺傷力を高めた『唐辛子スプレー・改』!!
もともと、対ヒグマ戦を想定して作ったものなのだ。
それをただの人間が目、鼻、喉に食らったらどうなるか、お察しいただけるかと思う。
「いでえ!! いってえよおおお!!」
う、うん。引くほどの威力だわ。大の大人が顔を押さえてゴロゴロ転がって、泣きわめいてる。
通行人の皆さんは、呆気に取られて泥棒を見てた。
「何だ?」「あの子、いったい何をしたんだ?」
あ、不味い。カッとなったからとはいえ、人前でうかつにスプレーを使ってしまった。
注目される前に逃げよう。
私は急いでカバンを拾い、その場を走り去った。
角を曲がって一息つき、大きなカバンを見下ろした。
「中身は大丈夫かな?」
と、カバンの金具をパチンと開けて中を見――。
通りの向こうから、息絶え絶えな顔のお兄さんが走ってきた。ここらでは珍しい洋服だ。イケメン寄りのお顔である。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「これ、あなたのですよね?」
私は走ってきたお兄さんにカバンを差し出した。
その人はカバンを見るなりパッと顔を明るくし、
「よよよよよ良かったあー!!」
彼は奪い取るようにカバンを取り戻すと、ものっすごく愛おしげ頬ずりした。
「良かった~。これが盗まれたら、僕はもう終わりでした!!」
「お役に立てて良かったです。では私はこれで――」
私は何も見なかったことにして、足早に立ち去ろうとした。
すると。
「待って下さい。このカバンの中身、見ました?」
…………。
「見てませんよ。私がカバンの中身を盗んだとでも?
ではここで開けて中を確かめて下さい」
冷たく言うと、お兄さんはハッとしたみたいだ。
顔を赤くし、
「すみません。取り返してくれたのにお礼も言わず。
あなたが泥棒からカバンを奪い返してくれたんですか? 女性の方なのに?」