【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
とりあえず、カムイだの使命だの役目だのの話はさておこう。
インカラマッさんが同行してくれたことで、旅の難易度は一気に下がった。
女同士ということもあり、私たちは仲良くなった。
インカラマッさんはお姉さんみたいに面倒をみてくれた。
彼女は私が求めるままに、アイヌの話を色々してくれた。
夕張に着く頃には、私は簡単なアイヌ文様刺繍(ししゅう)が出来るようになったくらいだ。
あと言っちゃ悪いが、彼女は尾形さんより山に詳しかった。旅の合間に、そのあたりのことも教えてもらった。
……尾形さん、小樽で心配してるだろうなあ。
出来れば夕張から電報を出したいところだが、いつぞやの件で郵便局はトラウマだ。
それに第七師団と郵便局が癒着して無いとも限らない。
私が無事に百年後の世界に戻り、また庭で再会出来る偶然を祈るだけだ。
――で、また場面は夕張に戻る。
目的地にたどり着いたということで、私たちはここでお別れだ。
「梢さん。本当に馬をもらっていいんですか?」
馬の手綱を握り、インカラマッさんが言う。
「ええ。旅費もお支払い出来ませんし、せめてものお礼に受け取って下さい」
つか、もともと私の馬じゃないし。
「私こそ梢さんにウェンカムイから救われたのに……」
「いいんです。私はこの町にいる人に用があるので」
「うふふ。女神様の婿取りですか。頑張って下さいね」
この人も、どこまで本気なんだかなあ。
「もし旅の途中で、尾形という極悪非道な軍人に会うことがあったら、『梢は帰るべき場所に帰った』って伝えて下さい」
「分かりました。必ずお伝えします」
まあそんな偶然は万に一つもないだろうが。
名残惜しいがインカラマッさんにも行き先がある。
私たちは、お別れの挨拶をした。
「インカラマッさん。お元気で」
「梢さんも。無事にお役目を果たせるよう、お祈りしていますね」
何の役目っすか。
私は手を振り、来た道を戻るインカラマッさんを見送った。
「さて」
そして再び一人に戻った。
私は炭鉱の町に向き合う。
やっと目的地にたどり着いた。
……あとはこの町のどこにいる月島さんを、どうやって探すか。
私を失った山猫のことは、考えないことにした。
――END